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「違うわよ…!見た…見た…!」
不意に声を潜めて秋さんがあたしの耳元で囁く
わ、近くで見ると冴香さんより美人だ、この人
おまけに吐息まで甘い香り…
見たって何を見たんです?可愛い可愛い優花ちゃんの寝顔ですか?それとも冴香さんの無駄に大きいアノ脂肪の塊ですか?美優ちゃんの平らな胸ですか?
あたしが冗談めかして付け加える
それとも例の国際指名手配犯でもいましたか?
「そう!それ!さっき見掛けた!エレベーターから降りてきて、ホテルの人が英語も何も通じないって言ってたし、あたしが聞いたのも知らない言語だった!」
え?でもあたし見てませんよ?そっちから来ましたけど
すると秋さんは無言で反対側を指差し
「露天風呂からここに来るのには、もうひとつルートがあるじゃない」
…いや、確かにそうですが…
「それにこの屋上にはココ以外に行く場所ってひとつしか…」
その事実に思い当たった瞬間、あたしの身体は勝手に動いていた
袂からスマホを取り出し、ゆかりさんに電話をする、ビンゴ!ワンコールで出てくれた!…風の音に混じって機械音がするのは…ヘリコプターか!あたしは「敵」の居場所を伝えるべくGPSを起動し、上空から狙い撃ってもらうよう依頼し…風呂場へ戻る決心をする
正直、荒事は冴香さんに任せたいところだが…、たぶん今回の相手は冴香さんでも手に余るだろう。対応出来るのは…カフェ美宙で留守番してくれている3人だけだろう、残念ながら
秋さん、出来たらこの牛乳瓶持って部屋に戻っておいてほしいです、ちょっと見られたくない現場になりそうだから…
フルーツ牛乳といちご牛乳の入った洗面器をひとつずつ、秋さんに押し付け…いやさ、預ける
今度の相手にどう対抗すれば良いのか、あたしにはよくわからない
でも、怒ると誰よりも怖い冴香さんとあたしよりちょっと落ちるけどまぁまぁ可愛い美優ちゃんを守る為だ
はっきりしてるのは、今あの二人を助けられるのはあたし、可愛い南田優花ちゃんしかいないって事
こういう時可愛いと得だ、秋さんは力強く頷いてエレベーターを呼ぶ為にボタンを押した
そして、あたしをギュッと抱き締めてくれて
「ちゃんとあの二人を連れて帰って来るのよ?勿論、優花ちゃんも無事にね?」
…これが冴香さんには足りない部分だ
あたしの身まで案じてくれる、秋さんにあたしの心は思いっきり転んでいった
猫さんがあたし、可愛い可愛い優花ちゃんをお嫁さんにしない可能性なんてゼロに等しいんだけど、もし秋さんか冴香さんしか選択肢がないのなら、あたしは迷わず秋さん推しだーー!
秋さんがエレベーターに乗り込み、あたしが踵を返した瞬間、屋上に悲鳴が走った
あたしは脱衣場に全力ダッシュし、ロッカーに隠していた相棒М1877を取り出した
弾倉を開けて中を見る
うん、猫さんが込めてくれた特殊弾がしっかり装填されている…
脱衣場にへたり込んでいたホテルの人に、110番通報するように伝える
露天風呂へと続く脱衣場の木製のスライド扉が開いたままだ
あたしは意を決してそちらに走った
露天風呂に足を踏み入れる瞬間、自分に気合を入れる為に雄叫びを上げる
うぉらー!あたしの家族に何しようとしてやがんだー!この狼もどきどもが!かかってこんかい!ぶっ飛ばしてやるぜ!!!
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