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第22話 中間テスト明け
葵が家に帰ってくると、玄関では杏子と一臣が待っていてくれた。
素直じゃない葵は、二人の顔を直接見て話せない。
けれど、小さな声でごめんなさいと謝った。
それだけでも、葵にとっては大進歩だった。
結局、二人には青山女子学院で何があったのか話すことになった。
すると、杏子はあっさりと葵に答える。
「別に友達なんていなくてもいいじゃない?」
意外な言葉に、家族一同杏子に振り向く。
「無理に作らなくてもいいわよ。だって、別に葵ちゃんもその子たちの事好きなわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど……」
「あったまの悪いお嬢様なんかとつるんでもいい事なんて、ないない。ま、そのうちに仲良くなりたいって子も現れるわよ。そん時、頑張ればいいじゃない」
杏子はそう言ってにこにこ笑っている。
一臣はそう言えばと昔の事を思い出していた。
「僕と杏子さんは高校の頃からの知り合いなんだけど、杏子さんも高校時代友達いなかった気がするよ」
意外な発言に二人は固まる。
なんだか、杏子がますます結城に似ているような気がした。
「ほら、杏子さんって昔から人を甚振るのが好きだったから、仲良くするより徹底的に相手を追い詰めていたよね。むしろ、僕にはそんな杏子さんが魅力的で、割と近くにはいたんだけど、その頃は全く見向きもされなかったんだよね」
一臣はまたはあはあ息を荒げながら話す。
どうやら昔の事を思い出しているようだった。
「お父さんも昔からマゾでね、勉強もスポーツも自分をとことん追い込んでいたからすごく優秀だったのよ。きっとそう言うところ、蓮君はお父さん似なのね」
全然嬉しくなかったが、ひとまず両親の反応には安心した。
もう、葵にも重荷にはなっていないようだった。
中間試験も無事に終わり、成瀬たちはやっとあの重苦しい雰囲気から解放された。
葵の件が解決してからは問題なく勉強も進み、いつも通りの成績はとれていそうだ。
しかし、残念ながら、浜内はそうではなかったらしい。
せっかく成瀬に勉強を教えてもらったというのに、あまり答えられなかったようだった。
「成瀬ぇ。俺嫌だよぉ。スパルタ塾とか本当に行きたくないんだよぉ」
浜内は成瀬に抱き着きながら泣いていた。
こういう情けないところはあるが、葵が行方不明になった時、必死で駆けつけてくれた成瀬のいい友ではある。
しかたがないと成瀬は浜内に助け舟を出すことにした。
「わかった。今回は浜内にも迷惑をかけちゃったし、俺の方からも浜内のお母さんに話を付けてあげるよ。今度の期末試験までに延ばしてもらえるように」
それを聞いた浜内が更に泣き出した。
成瀬は横目で結城の机を見た。
結城は珍しくそこにはいなかった。
成瀬は無理矢理、浜内を引き離して教室を出た。
ここにいないと言うことは恐らく結城はあそこにいるのだろう。
成瀬は階段を上がり、いつもの場所に向かう。
案の定、結城は屋上にいた。
屋上で大の字になって寝ている。
春の日差しと風が気持ち良く、いい顔で寝ている。
「そんなところで寝たら、服が汚れちゃうよ」
成瀬は横になっていた結城にそう話しかける。
結城はあっさり起き上がって、成瀬を見た。
「また、結城さんに助けてもらっちゃったね。なんか、いつもごめんね」
お礼を言ってばかりの自分が少し情けなくなった。
しかし、そんな成瀬に結城がぽんぽんと頭を撫でる。
「お前はよくやってるよ。今回もよく頑張ったな」
結城はそう言って、小さく笑って見せた。
あの時にも見せてくれた結城の笑顔だ。
それが、なんだかすごく嬉しかった。
「よし、戻るか!」
結城はそう言って立ち上がり、出口に向かった。
成瀬も立ち上がって、結城を追いかけた。
二人が階段から降り、教室に戻ると二人の前に一人の生徒が立ちはだかっていた。
それは雨宮だ。
二人とも意味が分からず、雨宮の顔をじっと見る。
「結城さん。中間テストも終わったことだし、一緒に考えましょう」
彼女はそう言って、黒板を見せた。
そこには体育祭の種目の一覧が書かれていた。
そう、中間テストが終わると春の体育祭が始まる。
去年まで、結城はほとんど不参加だったが、今回はそうもいかないようだ。
雨宮はにっこり笑って、結城に言った。
「今年の体育祭は面白くなりそうね」
何故だか、成瀬には嫌な予感がしていた。
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