第23話 体育祭種目決め

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第23話 体育祭種目決め

体育祭委員の号令で、クラスメイト達はそれぞれの席に着いた。 今日は中間テスト最終日だったので、午後からの授業はない。 それを利用して、三週間後に行われる体育祭の準備を始めることにした。 そして、その最初の内容は種目決めである。 誰がどの種目に出るのかを決めなくてはいけない。 最低1人1種目は参加が原則。 男子は騎馬戦が全員参加。 女子は組体操が全員参加だ。 組体操が女子の科目というのは少し変わっているが、なぜだかこの学校の恒例種目となっていた。 そして、綱引きは全員参加が義務付けられている。 後は、 徒競走 障害物レース 棒倒し 玉入れ 二人三脚 クラス対抗リレー だ。 部活をしている生徒の何人かはクラブ対抗リレーにも参加をするだろう。 基本的に種目は立候補で決め、定員オーバーした場合にじゃんけんで決めた。 ただし、クラス対抗リレーに関しては、クラスで足の速い生徒の上位か選抜される。 当然、その中には成瀬もそして、陸上部の雨宮も入っていた。 「ねぇ、確か結城さんも100m走のタイム、そこそこ早かったわよねぇ」 クラスでその話になった時、雨宮が寝ている結城を見て言った。 クラスメイト達の目が一斉に結城に向けられた。 さすがにこの状態では寝てはいられない。 「確か、15秒弱。でも、それって本気出してないよね?」 雨宮は何もかも見透かしたように話した。 そう、結城は体育の時間もあまり本気を出したことがない。 無難な結果を出して目立たないようにしている。 しかし、雨宮は気づいていたのだ。 本当は結城の運動能力が高いということを。 普段の生活から見ても、彼女の咄嗟に見せる反射神経はずば抜けている。 結城は黙って雨宮を睨みつけた。 「本当は14秒ぐらい楽に出せるんじゃない? 陸上部の部長が知ったら喜んで勧誘してくるでしょうね」 結城の顔は更に強張った。 「さあな」 強気な表情で見てくる雨宮に顔を背けて答える。 「なら、徒競走とクラス対抗リレーは私と結城さんが参加と言うことで。誰も文句ないわよね?」 雨宮の言葉に逆らう者などいない。 普段から雨宮はクラスの仕切り役だ。 だからこうして結城にも突っかかっていけるのも彼女ぐらいなのだ。 わかりましたと体育委員が承諾して、別の種目のメンバーを決めることになった。 しかし、このクラスは若干男子生徒が少ない。 体育委員の女子から、成瀬は頭を下げられた。 「成瀬君、ごめん。実はほとんどの科目が人手不足なんだ。だから成瀬君、出てくれないかな? 玉入れは女子のみの競技だから大丈夫なんだけど……」 成瀬は少し困って見せたが、去年も同じような状況だった。 進学校のこの学校には運動よりも勉強が得意な人が多い。 だから、体育祭はあまり好まれたイベントではないのだ。 成瀬はどの運動にもそれなりの結果を出している。 頼むなら誰もが成瀬だろうと思っていた。 そんな成瀬を結城が横目で退屈そうに見ていた。 「わかった。いい結果を出せるかは自信ないけど」 「ほんとぉ!? 恩に切るよ、成瀬君!」 彼女はそう言って喜んだ。 成瀬は困った顔をして笑っている。 それを見ていた結城が小さく息をついて、再び伏せて寝始めた。 「次に応援合戦に関してですが――」 体育委員の女子がそう言い終わる前から、クラスの女子が一斉に手を上げた。 その顔は実に真剣である。 逆に男子たちは呆れて見ているしかなかった。 なぜ、この応援合戦が女子に人気かというと、女子の参加者はチアガールの格好をするのだ。 その姿で、クラスメイト達を応援するのだが、彼女たちが応援したいのはただ一人のみ。 当然、成瀬だ。 成瀬に自分たちのチアガール姿を見せて、全力でアピールしたいと言う気持ちの一身で手を上げている。 当然、この立候補者の中に結城と雨宮はいない。 「あのぉ、うちのクラスの定員は6名だけですけど……」 体育委員はものすごく困った様子で答えた。 女子たちは自主的に教室の後ろに集まって、じゃんけんを始める。 その本気度に男子たちは何も言えなかった。 「そうは言っても、女子のチアガール応援って毎回見ものだよなぁ」 浜内は去年の応援団の光景を思い出しながら言った。 完全に口元が緩んでいる。 「浜内は何に出るの?」 成瀬はあまり積極的には見えない浜内に聞いてみる。 するとなぜだか自信満々に親指で自分を指して答えた。 「これでも俺、運動神経いいからさ、何だって出来るんだぜ」 「なら、俺の種目も少しは代わってよ」 成瀬は呆れながら答えた。 なぜなら、成瀬はほぼすべての競技に出なければいけないからだ。 恐らくクラブ対抗リレーにも参加するだろう。 「いやいや、体育祭は唯一の俺っちの活躍の場だからさ、出場科目には余念がないのよ」 「じゃあ、何に参加するの? クラス対抗リレー?」 「ま、皆に頼まれたら仕方ないな。俺は構わないぜ!」 決めポーズで答える浜内に近くにいた、草津が話しかけて来た。 「で、浜内は100m走、何秒なんよ?」 「13秒に近い、14秒!!」 「おっそっ!!」 草津は浜内の言葉に突っ込む。 そう、高校三年の男子の100m走の平均は14秒ジャスト。 一般的なタイムなのだ。 浜内のどこから自信がわいて来るのか草津にはわからない。 「ってか、後残ってる男子の科目って何なのよ」 草津はそう言って黒板を見る。 徒競走と玉入れは既にメンバーが決まっている。 後は障害物レースと棒倒し、二人三脚だ。 草津は二人三脚の文字を見て、浜内にきつく言った。 「あんた、二人三脚だけには参加しないでよね。女子が可哀そうだから!」 「草津さん、なんか僕に冷たくないですか?」 自信を喪失した浜内が涙目で答えた。 確かに勉強が不得意な浜内にとって、体育祭は唯一活躍できる場だ。 とは言っても、高校生の平均からすれば浜内の実力は平均程度。 それほど活躍が出来るとは思えない。 「必然的に障害物レースと棒倒しは参加みたいだね」 成瀬は残った科目を指して言った。 男子の数は少ないのだ。 浜内でも2科目は出なければならなくなるのだ。 「だって、障害物レースなんて全然かっこよくないじゃん。棒倒しって地味だしさぁ」 「そんなことないよ。頑張っていれば、どの科目もかっこよく見えるって」 成瀬は頑張って浜内にフォローを入れる。 そもそも体育祭の科目はかっこいいかそうではないかで決めるものではないとは思う。 どれをとっても活躍を見せて、1位を目指さすことが目標だ。 棒倒しも恐らく浜内は攻める側ではなく、棒を倒されないように守る側だろう。 散々皆に踏みつけられていく浜内の姿が目に浮かんだ。 そして、だいたいの科目担当が決まった後、男子と女子に別れて話し合いになった。 男子は騎馬戦があるので、そのメンバーを揃えなければいけない。 それに棒倒しも男子のみの競技である。 それぞれの役割分担の話になった。 騎馬戦では成瀬、浜内、福井、高坂のメンバーになる。 なんだか、とても勝てそうにないメンバーだ。 「で、誰が上に乗る?」 騎馬戦の役割問題。 結構重要な部分ではあるが、容易には決められない。 その中で相変わらず頭の悪い浜内が何も考えずに答えた。 「俺乗ってもいい? このメンバーなら体重もあんま変わりないしさ、騎馬の上ってなんか大将になった気分になって良くない?」 浜内はへらへらと笑っている。 そして、福井と高坂が同時に答えた。 「浜内だけは却下!」 「ええ――――っ!!」 それなりにショックを受ける浜内。 「ってか、浜内に跨がれるのすげぇ嫌」 高坂がよそを見ながら答えた。 「わかる、わかる。浜内に上になんて絶対乗ってほしくないよね」 頷きながら福井も答える。 「なんか、なんかってひどいよ! じゃあ、誰が乗るのさ? 俺だって誰にも跨がれたいわけじゃない」 二人の意見にむきになって答える。 すると答えは自ずと見えてくる。 三人は同時に成瀬を見て、彼自身、俺?っと自分を指さして聞いた。 「まあ、俺も高坂も上になって、別クラスの奴らと戦う勇気ないしな。成瀬が適任なんじゃね?」 福井の提案に高坂も同意した。 これで、成瀬が騎馬の上に立つことが決まった。 このまま本当に大将のポジションも来なければいいなと思う成瀬だった。
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