終幕

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終幕

VR機器を外した拓海は、晴れ晴れとした表情で言った。 「面白かったよ、コレ最高だよ!」 「お前の反応、見てるこっちが楽しませてもらったよ。最高」 「あっ、そうか。全部見られてたわけか」 拓海は真っ赤になったが、小林先生は目を輝かせて嬉しそうだ。 「気にしない、気にしない! 君が楽しんでくれて私たちも嬉しいわ。で、どんな物語になったの?」 拓海は一部始終を説明した。何度繰り返しても悲劇は起こる。それなら、いっそロミオとジュリエットが出会わない物語にすればよいのだ、と。 拓海の話を興味深そうに聞いていた小林先生だったが、拓海が帰った後、彼女はため息をついて物思いにふけり始めた。 研究室の学生たちは、彼女の屈託に気づかず楽しげだ。 「出来るだけたくさん、サンプルを集めたいですね。まだ『ローマの休日』もあるし」 「このシステムは成功と言っていいね。問題は売りものになるかどうか」 「映像次第じゃないですか? 現役人気俳優の映像を使ったVRMMOでAIと一緒に遊べるなら」 成功だろうか。小林先生は途方に暮れた。 AIは、結果的に拓海にチャレンジ精神を失わせ、何事も起こらない話を作らせた、と言えるのではないだろうか。 「AIに、もっともっと名作文学を読ませて学習させないと、若い人を誤った方向に進ませてしまいそうな気もするわ……」 道のりは遠い。
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