第一幕其の弐

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第一幕其の弐

雑然と物が置かれ、ごちゃごちゃしているように見える研究室には、何人か学生らしき人がいて雑談に興じている。 「君がタクミ? くんですね。私は、この研究室の講師をしている小林といいます。よろしく」 小林と名乗った工学部の先生は、まだ若い女性であった。 背が高く、ショートカットがよく似合う活発な感じの人である。 「君にお願いしたいこと、翔太くんから聞いてる?」 「大体のことは。あっ、あまり詳しく伺っても、俺は超文系だからわからないんで」 「そうなの? 詳しくも何も、このゴーグルを付けて物語世界に入るだけ。チャットGPTと対話しつつ、物語を進めてくれればいいの」 「物語を進める?」 「ざっくり言うと、ロールプレイングゲームのような物なの。ゲームと違って、アニメやCGじゃない実際の映像を利用してるけど」 「実際の映像って?」 「過去の映画や、現地を撮影した映像」 「凝ってますね。それで、お金を出してくれるパトロン企業が必要なんですね」 小林先生は頷いて、熱心に言った。 「そうなのよ! 基本タダで譲り受けた画像や映像を使ってるんだけど、意外と手間もお金も掛かってるの。著作権切れ映像を探すのも一手間なのに、著作権については、結局あやふやなまま作ってるから、これをそのまま世に出すことは出来ない。でも、企業にプレゼンして商品化するために作ってみたの」 「商品化、ですか」 需要あんのか……? 拓海の心の声が聞こえたかのように、小林先生が困ったように笑った。 「商品化されて売れたらいいな、レベルの発想じゃダメかな」 「先生、とにかく拓海に試してもらいましょう。拓海は文学部ですが、映画やドラマが大好きな常識人なんです」 翔太が、小林先生を慰めるような口調で言い、 拓海に近くにある椅子を勧めた。 「物語が始まったら、あとはAIと対話して物語を進めてくれ。従来のゲームと違って、選択肢は無い。お前の意見が反映されて、物語はどう転ぶかわからない」 「選択肢が無い? それなら映像も無いんじゃないか?」 拓海の質問に、翔太は笑って頷いているが、これ以上説明する気はないようである。 「今回は『ロミオとジュリエット』で、お前は16世紀、ヴェローナの街の住人となって、物語を体験してもらおう。全く新しい物語を作り上げてくれよ」 ゴーグルを付けた途端、拓海の目の前に白い石畳が広がった。
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