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第三幕
アラームが鳴り響き、AIの言葉が点滅する。
『何をするのですか? ジュリエットが目覚めるのを待たずに死ぬおつもりですか?』
ロミオこと拓海は、乾いた笑いと共に呟いた。
「いいんだ。もう疲れた。こんなに争いごとばっかり続けて、俺とジュリエットだけが幸せになんてなれるはずないだろう?」
『そうですか。では、これでいいのですね? お二人を幸せにするためのお手伝いが何も出来ず、申し訳ありません』
「いいや、実人生ではありえない事を経験出来て楽しかった、と言っていいかも。待てよ、ロミオを助けるために出来ることはある。物語の最初に戻してくれ」
【花の都、ヴェローナ。
モンタギュー家の一人息子ロミオは、愛するロザラインも参加するキャピュレット家の仮面舞踏会に行くことにした。
しかし、二つの名家は長年対立してきた仇同士。
恋に一途なロミオは、危険を冒して舞踏会に潜り込んだのである。】
(最初にジュリエットと出会った場所に行ってはいけない。二人が出会ってしまったから、悲劇は起きたのだ。ようは、出会わなければいいのだ)
ロミオこと拓海は、舞踏会で賑わうキャピュレット家の広間を慎重に歩いた。笑いさざめく一団の中心には、男たちにチヤホヤされて嬉しげなロザラインがいた。
(ジュリエットに比べたら、ゲスい女だなあ)
しかし、それは当然だ。ジュリエットは、まだ13歳の少女なのだ。清らかな少女なのだから。
そういや、ジュリエットって未成年じゃねーか! やべぇ!
スーッと何か冷めた気がして、拓海は引き返す。
『ロミオ、どうした?』
友人たちに尋ねられるが、さっきまで高揚していた気分は、すっかり萎えていた。
丁度、それと入れ違いにジュリエットが広間に現れた。きょろきょろと辺りを見回した彼女は、不思議とがっかりしているように見えた。
一方で、拓海も同じ思いだった。何か大事な忘れ物をしているような気がする。
しかし、これでいいのだ。仇敵の家の娘と恋愛するなどという冒険はしないに限る……。
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