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『鉄之助、お前はここまでだ』
毎晩毎晩、夢に見るその場面は、二年の歳月が経った今も、まるで昨日の出来事の様だった。
あの日の土方隊長は、初めて出会った日と何一つ変わらず、自分をまっすぐに見てくれていた。
あんなに憧れた人は、後にも先にもあの方だけだろう。
必死に追いかけた大きな背中には、例え世の中が変わらなくても手は届かなかったと思う。
「土方隊長…」
仏壇に手を合わせ、大きく息を吸い込む。
「今日まで、ありがとうございました」
深々と頭を下げていると、肩に誰かが触れた気がして、ふと振り向いた。
けど、そんなはずはない。頭を振ると再び顔を上げ、気持ちを整える。
自分で決めたのだ、故郷へ戻ると。長閑な暮らしに戻り、刀は振らないと…もう決めたのだ。
「テツくん、土方さんと話せた?」
襖から顔を覗かせる彼女は、出会った時とはまるで別人の様に穏やかな笑みを浮かべている。
出会ってから、もう何年経っただろう。
『女中』として紹介された彼女は、そう呼ぶより、もっと近しい存在だった。
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