二日目、午前

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 エレベーターの前でエレベーター待ちをしている守屋に追いつき、梅沢が一緒にいることを伝えた。 「わかった。そうしてくれると嬉しい」  どこが疲れたような苦笑とともにポツリと言った。 「めちゃくちゃダサかったね私。あの警察の人は確かにムカつくけど、ほんと、ドラマとか漫画みたいにはいかないんだってよくわかった」 「いや、あれはあの人に問題あるでしょ」  梅沢のフォローに守屋はありがとうと言った。その様子を見ていた香本は傍にいる警察官に尋ねる。 「ああいう捜査のやり方、本当に問題ないんですか」 「あくまでやっている内容は問題ありません。聞き取りをしてどう捜査をするかは各捜査官の自己責任です。もしクレームや法的な何かに触れるのならあの人が自分で対応します」  相変わらず人形のように無表情で淡々と答える警察官に守屋と梅沢は小さくため息をつく。 「つまり何か問題があることをやったら、言及や降格処分になるのはあの人が自分でやったことだからってことですか」  あくまで自己責任、そういうスタイルなのだろう。ドラマのようにきれいに取り調べが行われるわけでもないし、特番のように善良な警察だけが注目されるわけでもない。それでも世間の目を気にしていないようなあの男のやり方はかなり珍しい方だろう。 「しつこくてすみませんけど、本当にプライバシーを無視した見張りになるんですか」  香本の言葉に初めて警察官は呆れたような顔をした。 「さすがにそこまではしませんよ。見張ってなかったのかとあの人に怒られるのは自分なのでお気になさらず」 「ありがとうございます」  ほっとした様子でお礼を言う守屋に警察官は冷めた目で見つめた。 「人の排泄の様子なんて見たくないですから。あなたもこれ以上面倒なことにならないように口を滑らせないでください」  気遣う様子もない突き放すようなその言い方に守屋は黙り込んでしまった。つまりこの警察官も守屋たちに気を遣っているのではなく自分の仕事を増やすなと言っているのだ。あの捜査官の男と同じだ。それがわかり梅沢も黙る。  ――よそ者には厳しいのだろうか。いや、少し違う気がする。  旅館のスタッフたちとの間に感じた小さな壁、そして警察たちの独特な雰囲気。なんだか村八分にでもあっているような気分になる。しかしこの地域、観光で成り立っているような印象もある。旅館に来るまでに農作業の体験教室や道に並ぶ土産屋を見てきた。温泉もあり宿泊施設も多い。地元愛が強いのだろうか。  守屋の部屋に着きとりあえずやることもないので自分たちなりに何が起きたのか話し合うことにした。といっても得られている情報が少ない。 「久保田先生が来るまで待ったほうがいいかもな。みんなに何か指示をしたら来るって言ってたからすぐに来るだろう」 「そうだね。二人とも喉乾いてない? お茶しかないけど」  守屋が部屋に置いてあった急須と湯呑みを持ってきた。チラリと警察官を見れば警察官は一言「結構です」と言った。 「じゃあ頼むわ」 「僕ももらおうかな」  二人の言葉に守屋は少し嬉しそうにお茶を淹れ始めた。 「お茶菓子全然食べてないから、好きなの食べていいよ」 「そういえば俺もまだ食べてないんだよね。美味いのかなこれ」 「私は今ダイエット中だから。二人で食べちゃって」 「とりあえず一個もらっておきなよ。腹減ったら食べていいんじゃない」 「ダイエットの敵みたいな事言わないでよ」
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