二日目、午前

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「あくまで私の主観ですが生粋の女好きです。仲居さんにも声をかけていましたからね。その辺は捜査でわかっていると思いますが」  そういえば夕食の席でも料理を運んできた仲居たちにしきりにこれは何と言う料理かとか、雑談を持ちかけたりいろいろ話しかけていたなと思う。美人さんだな、男に人気があるんじゃないか、などとセクハラになりそうな事を言っていた気がする。 「今の話は報告させていただきます」 「どうぞ」  その言葉を聞いて警察官はどこかに電話をかけ始める。先程の捜査官の男だろう。小声で守屋が不満そうにつぶやいた。 「最初からそういう聞き取りすればいいのに」 「ほんとそれな」  二人の会話を耳にしながら、香本は改めてあの捜査官の取り調べ等のやりとりを思い出す。いくらあの男に権力がありやりたいようにやる性格だったとしても、あのやり方は効率が悪すぎる。  ――もしかして本当はもっと別に最優先で調べなければいけない何かがあって、こちらへの聞き取りはさっさと終わらせたかったのだろうか?  その疑問を久保田に話したかったが、警察官が電話を終わらせたので口にはしなかった。先程の警察官の言葉、余計なことをするなと言うのはおそらくこれも含まれる。この警察官は立場上気になる情報を見聞きしたら報告しなければならない。それはどんな些細な事でもだ。警察に情報提供するのは義務のようなものだとは言っても、会話をする内容は慎重にならなければならない。  それに先ほど守屋が言っていた、女性は疑われているのではないかという話。おそらくそれもあるが、今一番疑われているのは自分ではないかという思いがあった。そうでなければあの不可解な電話のやり取りの説明がつかない。  しかし何故だろう。何故自分が疑われたのだろう。アケビの話が出たのだからポイントはアケビだろうか。アケビを食べていないことがそんなに容疑者として疑わしいことなのか。例えば殺された現場にアケビが重要な鍵となるような痕跡があったとか?  しかしどれだけ疑われても自分は犯人ではない。これ以上何か疑われるような怪しい言動をしないようにしなくてはと気を引き締める。  一旦話が落ち着いたところで守屋が久保田にお茶を淹れた。 「外にも行けないし、なるべく部屋から出ないほうがいいだろうからやることって限られますよね。ぶっちゃけ暇なんですけど」  退屈そうに梅沢が言えば、香本が気になって久保田に尋ねる。 「こんな状況ですけど、聞いてもいいですか。結局今回の研究課題のテーマって何だったんです」 「そういえば本来であれば今日発表だったな。下手な探偵ごっこよりもまだ課題をやっている方が気は紛れるか」  確かに事件のあれやこれやと嗅ぎまわっていてはまたあの捜査官の男たちに何を言われるか分からない。すぐ傍に警察官もいるのだ。  久保田はタブレットを取り出すと坂本たちに気晴らしに研究課題の話をするが、こちらに来るかと連絡をした。返事はそんな気分にはなれない、ゲームでもやってますということだった。 「不謹慎かもしれないが、大目に見てもらおう。君たちもそれでいいかね」 「全然、むしろウェルカムです」 「僕も構いません」 「私も。何かやっている方が余計な不安やイライラしなくて済みそうだし」  三人の言葉に久保田は頷くと資料を取ってくると言い一度部屋を出た。
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