二日目、午後

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 突然、押さえられていた客の男が大きく体を痙攣させた。ビクリと体が撥ねると不自然にガタガタと震え始める。押さえていたスタッフたちもさすがに手を放した。 「あ、やべ」  そんな小さな声が聞こえた。間違いなく東雲の声だ。  ――やばい? 何が?  そう思っていると客の男が思いっきり血を吐く。そのまま地面に転がると中途半端に叩かれた虫のように、手足をバタバタと動かし血をゴボゴボと大量に吐きだした。 「ぎ、あ、あああ、えええあ!!」  奇妙な声を上げると首から大量の血が噴き出た。刃物で刺されたわけでもないのにまるで切り裂かれたかのようにだ。血が飛び散り文字通り血の海となる。誰もがその様子を呆然と眺めていたがざわざわとざわめき。女性が悲鳴をあげたことでパニックとなった。我先にその場から走り出す者、救急車をと叫ぶ者、騒然となる。  パァン、と大きな音が鳴った。全員が驚いて音の方を見ると東雲が拳銃を天井に向けており一発撃ったのだということがわかる。 「警察で調べるから、ギャーギャー騒ぐな。おとなしく部屋に戻れ」  今まで見てきたやる気のなさそうな態度ではない。まるでヤクザのような逆らったら殺されるのではないかというような重苦しい雰囲気だ。傍にいた別の警察官の一人が入り口の前に立ち誰も外に出さないような体制をとる。  こんな時に何を言っているんだ、救急車が、あいつ拳銃撃ったぞ、と客が口々に叫び始める。  気持ち悪い。胃がヒリヒリするような感覚。グロテスクなものを見て気が動転しているのではない。  早く、あんなものから遠ざかりたい。あんな。  ……から、早く。 「いい加減にしろ、お前のやってる事は警察の権限から外れている! 何の説明もなく、目の前で人が死んだのに部屋に戻れだと!?」  香本のすぐ隣にいた壮年の男性が怒鳴った。 「お前がどれだけ警察で偉いのか知らないが、これ以上お前の指示に従うつもりはない。こっちも知り合いに警察がいるんでね、これが本当に正しい捜査なのかどうかを今から電話で聞いてやろうじゃないか! もし何か一つでも違反があったら後は法廷の下で決着をつけてやる! そこを退け!」  うるさい。  男性の言葉に客たちからもそうだそうだと声が上がる。まるでスポーツ観戦の歓声のように、周囲が人の声で埋め尽くされていく。  うるさい。 「あのねえじーさん、ここの」 「黙れ! たいした捜査もせず好き勝手なことしかやらない無能な警察が、偉そうに指図をするな!」  うるさい。 「うるさい」  その声に誰もが声の方を振り返った。それを言ったのは。 「え?」 「香本君?」  梅沢と久保田が驚いたように声をかけるが、聞こえていないのか振り返りもしない。
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