二日目、午後

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「病の内容があまりにもざっくりしていたから気にしていなかったが。先程亡くなった人の様子を見る限りでは、少し特徴に重なるものがないかな」 「確かに突然苦しみ出して亡くなりましたね。これだけでは伝承に結びつけるのは少し弱いですが……でも、昔あった病なら、地元住民らしいここの人たちは知っていて当然かもってことですか。もし本当にそんな病があるのなら、この辺は立入禁止になっているだろうし色々と不可解な点が多い。でも、全く無関係だと切って捨てるにはちょっと気になりますね」 「絶対無関係じゃないと思う」  守屋が今まで見たことがない位少し興奮した様子だ。 「その推論だったらある程度の事は説明つくよ。警察も旅館の人もおかしなことが起きているのに落ち着いてるのはこうなることが予測できていた、ううん、いつ起きてもおかしくないっていう認識だとしたら。警察のあのやる気のなさすぎる取り調べのやり方とかは、概要を知ってるかやっても無駄だって思ってるのか。って事は最初から私たちを犯人だと思ってないのかもしれない。むしろ適当に犯人を作り上げて片付けようとしてるのかも」  まくし立てるように一気にしゃべり尽くす。その様子に久保田が「少し落ち着きなさい」と言うと我に返ったのかようやく言葉を止めた。 「君が疑われてその疑いが晴れたから気持ちが高ぶるのかもしれないが、今はその考えを結びつけるのは少々強引だ。ジグソーパズルで言うところのまだ数ピースしか揃ってない。間の何かがごっそり抜けているかもしれないのを手持ちのピースだけを無理矢理つなげるような事はしてはいけない」 「はい、すみません」  しゅんとした様子で謝るが、今までのような落ち込んだ様子は見られない。あの警察官が離れたと言うのも大きいのかもしれない。四六時中監視されなければいけないのかと気を張っていたのだろう。  ――本当にそうなんだろうか。  香本は少し疑問に思っていた。先程の守屋の態度、自分が解放された喜びで食いついたと言う感じではない。まるで長年探し求めていたもののヒントを見つけたかのようなテンションの上がりようだった。  三人で伝承や民話などについて話すと、取りまとめは香本がよくやるが、喋りが止まらないのは守屋の方だ。よくそんなことまで調べたなというような細かい資料を持ってきて、私はこう思う、みんなはどう思うかと聞いてくる。  ――もしかして守屋さん、木村教授や誰かが亡くなっていることは結構どうでもいいのかな。  不謹慎ではあるがそれが悪いということではない。木村は女子からは人気がなかったし、もう一人男性が亡くなっていることも守屋は直接見ていない。今回の研究課題が守屋にとって非常に興味の湧く内容だったのだとしたら、今そちらの調査をしたいという思いが強いのかもしれない。  ――やっぱり彼女に僕のことを話すのはちょっとやめておくか。  守屋が悪い人間ではないのはわかっているが、妙なことに興味を持たれてあれこれ根掘り葉掘りされたくは無い。大学で会話をする程度の付き合いなので真面目で落ち着いた人だと思っていたが、自分の興味がある事には食い気味のようだ。根っからの研究者気質なのだろう。……注意が必要だ。 「先生、その謎の病とやらについては何か続きや教訓等はないんですか。例えば他の人には秘密にしようとか、地域住民の結びつきが強くなるような」  守屋の質問に久保田は首を振る。 「この辺を詳しく調べていたのは木村教授なんだ。ここの宿を紹介したり伝承を知っていたのは彼だと話しただろう? 何度かここに旅行で来たことがあるらしく仲居さんなどに話を聞いていたらしい。木村教授に話していたのなら秘密にするという風習はないと思うが。木村教授のパソコンに資料が入っているかもしれないが、この状況では荷物を持っていくのは許されないだろうね」  もちろん今この状況で仲居など旅館側の人間にそれを聞く事は絶対にできない。それに聞いても答えてくれないだろう。 「とりあえず今俺たちができることって何ですかね。二人も犠牲者が出てとんでもないことにはなってるけど。二人目のあの人も例えば毒殺された、犯人はこの中にいるみたいな事になったら結局俺たちまだ帰れませんよ」 「警察官が離れたんなら、今が家族とかに連絡するチャンスなんじゃないの」  梅沢に香本がそう言うと全員慌てて自分のタブレットや電話等を取り出す。みんな思い思いに家族や友人に連絡を取り始める。  何か突っ込まれても嫌なので香本も一応連絡をするふりだけはした。親しい友人などは作ってこなかったのでもちろんいないが、母親だけでなく父親もすでに亡くなっているのでいない。高校卒業まで面倒を見てくれた親戚とは仲が悪いわけではないが、香本の人を寄せ付けない言動があまり好きではないらしく緊急時以外は連絡を取り合っていないのだ。香本もそれを望んでいる。 「一応アプリで連絡入れておいたけど。なんか急に電波悪くなったよな、通信障害みたいな感じだ」  梅沢がスマートフォンを睨みつけながらつぶやいた。確かに通信回線の状況はかなり悪い。旅館にはフリーの回線があり、今朝までは快適に使えていたはずなのだが、今はネットワークに繋がりませんと言う表示が出てくる。  ここは確かに自然が溢れたやや奥まった場所ではあるが、観光地だからこそ回線の状況は悪くないはずだ。まして携帯会社は皆バラバラでどこか一つの会社だけ通信障害が起きているという感じでもない。
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