二日目、午後

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「ここでこうしていても仕方ない、この後どうするのか、我々は帰ってもいいのか確認してこよう」 「お願いします」  守屋が久保田を見送り梅沢は再び外の様子を見た。 「とりあえず外に出てる奴はいないな。って事はやっぱりまだ出してもらえないのか」  香本の件で内容がすり変わってしまったが、重大な問題は一人亡くなったということだ。しかも警察は静かにさせるために発砲までした。客たちはもう警察や旅館の人間の指示には従わないだろう。 「あ。おいあれ」  外を見ていた梅沢が二人に手招きをして外を指差す。近寄って見てみると数人の客が旅館の人間を突き飛ばしたり振り切って無理矢理外に出ていた。窓を開けると激しく口論しているのがわかる。 「まあそうなるよな」  そのまま帰るんだろうかと見つめていると。  突然宿側の人間が客に対して棍棒のようなものを振りかざした。そして、ためらうことなく思いっきり棒で殴りつける。 「え?」  梅沢が思わず間の抜けた声を発した。守屋は目を見開き香本もその光景を見て固まる。  何度も何度も棒で頭を殴られ、殴られた客は動かなくなった。それを見ていた連れらしい者は悲鳴をあげる。しかし後ろから近寄ってきた仲居が同じく鈍器のようなものでその客の頭を殴りつける。 「ちょっと待ってくれよ、シャレにならないって、死んじまうだろそれ」  震える声で梅沢が言うがもちろん彼らに届く事は無い。動かなくなるまで殴りつけると、そのまま放置してスタッフたちは戻り始めた。  守屋はその場で尻餅をつく。ガタガタと震え、しかし目線はしっかりと外を見ている。殴られた人たちはピクリとも動かない。梅沢の電話が鳴った。その音にびくりと体を震わせ、慌てて電話を取る。着信相手は坂本だ。 「はい!? あ、うん、お前らも見たか今の!? なあ、かなりやばいだろ!」  どうやら坂本達も見ていたらしく、動揺して連絡してきたようだ。目の前で、公然で殺人が行われた、信じられないような光景に梅沢の顔色も悪い。 「かなりやばい、こっちの警察官もいないし合流した方がいいよ」  一旦電話を切り坂本たちがこっちに来るという話をしたがすぐにまた電話がかかってくる。 「スピーカーにできる?」  香本の提案でスピーカーにするとかなり切羽詰まった様子の坂本の声が電話から聞こえる。 『外に出ようとしたら旅館の奴らが部屋から出るなってすげえ勢いで怒鳴ってきた。突き飛ばされて部屋に押し込められたんだ』 「さっきの外の様子といい、完全に客としても見てないし容疑者の扱いでもない。何かを隠していて人間以下にしか見てないみたいだ」  香本が冷静にそう言うと坂本と相川はどうすればいいんだと焦っている。坂本たちの部屋は階が違う。こっそり部屋を抜け出して合流するのはかなり難しそうだ。 「久保田先生大丈夫かな」  香本が心配そうに言うと傍にいた守屋がオロオロと落ち着かない様子になる。 『どうするんだよ、どう――』  そこで電話が切れた。どうやら回線の状況が不安定のようだ。電話はやめた方がいいかもしれない、アプリの連絡にしようと梅沢が文章打つとしばらくしてから分かったと返事が来た。おそらく返事はすぐに打ったはずだ。返事が来るのにもこんなに時間がかかっている。 「もう隠そうともしてない、久保田先生が危ないよ。探しに行かないと」  焦りながら言う守屋は二人の反応を待たずに外に出ようとする。梅沢が慌てて止めた。 「茜ちゃんちょっと待って!」 「待てるわけないでしょ! 緊急事態なんだよ!?」 「探すに行くにしてももう少し慎重になってくれ、何をされるかわからな状態だ」 「でも!」 「闇雲に突っ走らないでくれって言ってるだけで助けに行かないと言ってない。見つからないように隠れていくとか、音を立てないように行くとか」  香本の冷静な説得にようやく合点がいったらしい守屋は小さくごめん、そうだよねと言った。正直旅館の者たちに見つからずに行動するのはかなり難しい。監視カメラがあるのだ。 「こそこそと何度も動き回るよりみんなで一斉に逃げ出すような行動した方がいいかもしれないね。何度も様子を窺ってると本当に扉の前に一人監視が置かれそうだ」  香本はそう言いながら久保田の連絡先にアプリでメッセージを送った。さっきの話で確認したいことがあるので部屋に戻れますか、という当たり障りない内容だ。外でこんなことがあったんです、など書いたら混乱するだろうし万が一旅館の者がそこにいて内容見られたら久保田の身が危ない。
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