二日目、午前

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 面倒な事になってなければいいなと思いながら部屋に戻ろうとすると、今度は別の男性スタッフが香本に話しかけてきた。 「お客様、確か萩の間にお泊まりの方ですよね」 「そうですけど」  話しかけてきたのはチェックインをする時鍵を渡してくれた受付のスタッフだった。 「実は込み入った事情が起こりまして。今回宿泊の予約をくださったのは木村様なのですが、皆様は大学の教え子と伺っております。木村様以外で少々お話しいただける方はいらっしゃいますか」  要するに他に引率者はいないのかと聞いてきているのだ。木村がいるのにおかしいなと思いながら久保田のことを話した。 「承知いたしました、ありがとうございます」 「どうしたんですか?」 「いえ、あの」 「聞き方を変えましょうか。木村教授に何があったんですか」  その言葉にスタッフは黙った。木村以外の責任者がいるかと聞いてきたのなら、木村に何かあったとしか思えない。沈黙してしまったのはその答えだ。 「……私個人の判断は致しかねますので、まずは久保田様にお話をさせていただきます。申し訳ありません」  そう言うとスタッフはバタバタとスタッフルームに走っていた。内線を使うのだろう。  よほどのことがあったに違いない。木村の部屋の場所は分かっているので、様子だけ見てみようとエレベーターのボタンを押した、木村は四階の部屋だ。  四階の部屋は少々値がはる。木村はおそらく自分の部屋のグレードだけは上げておいたのだろう。参加した他の生徒からも自分ばっかりとヒソヒソと言われているのを耳にしている。エレベーターを降りてすぐに数人のスタッフがある部屋の前で立っているのが見えた。おそらくあそこだ。  近づくとスタッフたちからはどこか警戒するようなあまり歓迎していない雰囲気を感じ取る。 「その部屋に泊まっている木村教授と一緒に泊まっている者です。何かあったんですよね」  先程のスタッフとの会話を説明すると一人のスタッフが代表するようにこう言った。 「申し訳ありませんお客様、先程のスタッフもそう申し上げたように、まずは久保田様にお話をさせていただきます」  どうやらよほどまずいことが起こったようだ。これ以上押問答する意味がないし、久保田が動けば自分たちにも指示が来るだろう。分りました、と言って踵を返し再びエレベーターに乗ろうとした時だった。エレベーターのボタンの端にほんのわずかについている赤茶色。  指で少しこすってみたが乾燥しているらしく落ちなかった。  血が乾燥したらこんな感じになるだろうな。どこか冷静にそんなことを考え、なんとなく何が起きてしまったのか予想がついたのでおとなしく自分の部屋に戻った。
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