二日目、午前

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 フロントから警察が来たのでエントランスに集まってほしいと連絡が入った。貴重品だけ持ってエントランスに集まると、ちょうど外から警察が入ってきたところだ。意外にも物々しい雰囲気ではない。来ていたのは刑事と思われるスーツ姿の中年の男と制服を着た警察官二人のみ。人が死んでいるのなら鑑識が来たりもっと人数が集まると思っていたので皆不可解そうな顔をしている。 「あー、じゃあ一人一人状況確認するから」  いかにもやる気がなさそうな態度で中年の男は一番近くにいた久保田から話を聞いていく。てっきり個室に入って一人一人他の人間の情報が聞こえないような環境で聞き取りをすると思っていたが、まるで世間話をするようにその場で聞いて回っていくだけだ。  しかも話している内容は昨夜から今日にかけて何をしていたかだけ。どの時間に何をしていたのかなど細かい話を全く聞いてこない。これが本当に聴取なのだろうかと首を傾げる者もいた。記録さえ取っていない。 「次、あんたは?」  坂本に声をかけると、坂本は不審そうな態度を隠しもせずわずかに語気を強める。 「飯食って、風呂入って、寝ましたよ」 「あーそう、次」 「こんな適当な聞き方で一体何がわかるって言うんです。もっとちゃんと調べてくださいよ」 「オタクらの中に殺した犯人が混じってるのか?」 「それがわからないから聞き取り調査するんだろ。田舎の警察ってそれすらしないのか。都会とは大違いなんだな」  苛立った様子な坂本に、警察の男はやれやれ、といった様子で大きくため息をついた。 「不満があるんだったらその都会の警察とやらに泣き付いたらどうだ。こっちは忙しいんだよ、ガキの愚痴に付きあわされても残業代出ないんだから、くだらない事で時間取らせるな。お前が残業代払ってくれるのか」  邪魔だ、と坂本を突き飛ばすと次、と言って何事もなかったかのように守屋に聞き取りを始める。  今時こんな態度をすればネットに晒されて大炎上するというのに、男は全く気にした様子がない。坂本は大きく舌打ちをして聞こえるように罵声を浴びせるが、刑事も警察官も無反応だ。まるで坂本など見えていないかのような態度に、メンバーは眉を顰める。 「次」  香本の番となる。刑事が近づいたとき、また吐き気を感じてわずかに俯く。 「何だ?」 「いえ、別に。昨日は食事と風呂の後寝ました」 「ああそう。これで全員か、みんな飯食って寝たわけだ。以上で終わりだ、はい、解散」  それだけ言うと警察たちはエレベーターに乗り込んだ。今から現場の確認に行くのだろう。それを見送ってから坂本は大きく舌打ちをし、梅沢たちは不機嫌な様子でつぶやいた。 「なんだよあれ、本当に警察なのか?」 「とりあえずやる気がないのはよくわかった」  守屋もため息をつく。まさか事件を有耶無耶にしてしまうつもりはないだろうが、あまりにもひどい。 「俺らが犯人扱いされて十何時間拘束されなかっただけマシか」  諦めたように梅沢言うと、久保田に聞いた。 「これからどうするんです」 「一応帰り支度をしておこう。まさかこれで本当に終わりとはならんだろう。現場を見て新たに聞きたいことも出てくるかもしれない」  その言葉に香本は気付く。そうだ、あの警察たち。何故現場の確認より先に聞き取りをしたのだろうか。普通は現場の確認と聞き取り調査は手分けをして同時進行のはずだ。来た人数も少ない。やる気がないと守屋が言っていたように、やる気がない理由は一体何なのか。調べる気がないのはなぜなのか。
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