34人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
アトリエの冷蔵庫に入っていたアイスティーをグラスに注ぎ、僕は床に二つ置いた。
十五分ほど経ち、普通に会話が出来るようになったハンナさんはそれを飲んで、ポツポツと話し始める。
「……けんくらさん。じゅんくんはね、寂しさを知ってた。ちゃんと人間らしい感情で、私と心を通わせようとしてくれたんだ。嬉しかったな」
僕の告白には触れず、ハンナさんが虚空を見てそう呟く。僕は言葉を選んで、今日も短く返事を返した。
彼女に愛が伝わらない事を、僕は寂しいとは思わない。僕はもう、またハンナさんに伝えたくなっているのだ。
「けんくらさん。ximyがこの国でどのくらい生きているのか、分かる?」
唐突に禁忌を突かれた気がして、僕は思わず息を飲んだ。慌てて首を振ると、ハンナさんは僕を見つめ、言葉を落とし始めた。
「……私も分からない。けどね、私は、私だけはきっと、ximyもいつか「I miss you」の感情を取り戻せるって。そう、信じてるの」
それは、絞り出して零れたような、ハンナさんの心だった。
「私の花はね、枯れないんだ」
分かるよ、ハンナさん。
僕の気持ちも枯れないから。
そう口には出さず、僕はハンナさんに微笑みを返した。
最初のコメントを投稿しよう!