《scene.4》

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   ハンナさんの生み出す花のアートの数々は、いつもその時々の感情に触れその瞬間を切り取り、その心を「枯れない花のギフト」に残し誰かに贈って伝えようとする。  も、感情を無くしたくはないのだ。  ximy達は、この国に生まれ落ちて数年が経ち、鈍くても確実に、ようやくI miss youの心を取り戻そうとしている。  彼女の美貌も。  時折人間離れした感覚も。  今はまだ、愛に未熟に心を閉ざすところさえも。  僕はそれも愛おしいと思うけれど。  ◇  店舗を出て、営業車に乗り込む。  もう太陽はとっくに沈んでいて、先にある海は見えず波の音だけが遠くに聞こえた。  帰社が遅くて、社長が僕を心配しているかもしれない。 「明日は仕事休みだから、サーフィンに海に来るよ。ハンナさん、浜に見に来ない?」  運転席から、見送りに出てくれたハンナさんを、そう誘ってみる。  海風で靡く髪を抑えながら、はにかんで小さく頷いてくれた。アーティストらしさを感じないこんな素振りも、堪らなく可愛いと思った。  芸術分野の発展の為に送り込まれただろうハンナさんだが、きっとこの街の海風や潮のせいでバグが生まれて「寂しい」という感情に著しく反応するように変化していっているのかな。ハンナさんの心は、ちゃんと体温を持ち始めている。
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