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太陽が角度を付けて、テラスに日陰を作り始めた。
男の子を店舗の入口で見送った流れのまま、ハンナさんはテラスに移りハンモックに身を放った。
「ふう……」
ため息のようなものをひと息吐くが、表情はちっとも曇っていなかった。夕陽のような穏やかな微笑みを浮かべ、ゆらゆらと揺れている。
「お疲れさま。また、ハンナさんのところによく来る子?」
傍らにある椅子に座りながら、僕は通りに視線を遣る。海の方に駆けていった背中はもう遠くにあって、ハンナさんに悩みを聞いてもらって心が軽くなった様子が見て取れた。
「そう。じゅんくんはね、少し前にこの街に来たの」
「またかわいいお客さんが増えたね」
「うん。私の絵を見てね、話したくなったって」
「そっか。その気持ち、何となく分かるよ。あたたかいものね」
「『あたたかい』か。うん。そうだといいな。じゅんくんはきっと、優しい心を持った……人間の子だから」
開け放った店舗の扉が、海風を受けてパタンと閉じる。ほんの少しだけ曇った彼女の表情を、僕は隣りでぼんやり眺めた。
◇
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