6人が本棚に入れています
本棚に追加
紺のスーツをびしっと決め、サラッとした黒髪は綺麗にかきあげられていた。
とても爽やかな印象で、この大衆居酒屋にはあまり合わない様子だった。
「男ですか?」
見た目は爽やかでいい印象なのに、人の痛いところを簡単につついてくる。
「...はい。」
ほんとはあまり人に話したくなかった。話せばもっと傷つくと思ったから。
なのに、彼にはなぜか話したくなってしまった。
「一緒にいても未来が見えないって。つまらないって言われて。
一年以上付き合ってたんです。今までで一番長かった人で。ついこの間も二人でお出かけとかして順調だったのに...。」
私は別れには慣れているほうだと思っていた。
今まで別れを告げられたことは何度もあったし、
そこからすぐに切り替えることが出来た。
でも今回は違った。ちゃんと傷ついている自分がいた。
なんでだろう。
顔がよかったから。優しかったから。収入が安定していたから。
価値観があっていたから。信頼していたから。
きっとどれも当たっている。だけど、それだけの理由じゃないと思う。
だって今までだってそういう人はいたから。
じゃあなんでだろう。
なぜか悲しい。なぜか傷ついてる。なぜか涙が出そう。
なんで。なんでなんだろう。
「ふーん、なるほどね。ところで君さ、薬の効果とかは信用する?」
最初のコメントを投稿しよう!