彼がくれた薬がただのラムネだった話

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紺のスーツをびしっと決め、サラッとした黒髪は綺麗にかきあげられていた。 とても爽やかな印象で、この大衆居酒屋にはあまり合わない様子だった。 「男ですか?」 見た目は爽やかでいい印象なのに、人の痛いところを簡単につついてくる。 「...はい。」 ほんとはあまり人に話したくなかった。話せばもっと傷つくと思ったから。 なのに、彼にはなぜか話したくなってしまった。 「一緒にいても未来が見えないって。つまらないって言われて。 一年以上付き合ってたんです。今までで一番長かった人で。ついこの間も二人でお出かけとかして順調だったのに...。」 私は別れには慣れているほうだと思っていた。 今まで別れを告げられたことは何度もあったし、 そこからすぐに切り替えることが出来た。 でも今回は違った。ちゃんと傷ついている自分がいた。 なんでだろう。 顔がよかったから。優しかったから。収入が安定していたから。 価値観があっていたから。信頼していたから。 きっとどれも当たっている。だけど、それだけの理由じゃないと思う。 だって今までだってそういう人はいたから。 じゃあなんでだろう。 なぜか悲しい。なぜか傷ついてる。なぜか涙が出そう。 なんで。なんでなんだろう。 「ふーん、なるほどね。ところで君さ、薬の効果とかは信用する?」
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