トレース

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 私は最近ハマっていることがある。  AIアプリでマッチングすることだ。  ただのマッチングじゃない。  私の特徴を読みこんで、それにピッタリのものを選んでくれる。  私の全てをトレースしてくれる。  今日着ていく服装やお似合いのアクセサリー、メイクや髪型まで、その日に合わせてコーディネートしてくれる。 「ミユ最近変わったよねー」  友人にも言われた。 「えーそう?」 「前よりもオシャレになったっていうか。全体的にかわいいオーラ出てる」 「フフ、ありがとう」  とっても楽だなと思う。  そして、このAIアプリのもう一つすごいところ。  なんとお似合いの友人や……、恋人まで!選んでくれるそうだ。  その機能はまだ試したことがないんだけど。 「うーん。バイト先のカイくんとかカッコいいんだよな。それともソウ先生とか?」  私はニヤニヤとしてしまう。  カイくんは私がバイトしているコーヒーショップの同期の子でソウ先生は大学の先生。  どっちもイケメン。  私って面食いなんだよね。  だけど、それだけで選んで失敗するとか面倒くさい。  面倒くさいことは考えなくても、全部AIが選んでくれる。 「私の好きな食べ物、場所、時間。えーこれって全部答える必要ある?」  でも大した手間じゃない。  数分でポチポチっと答える。 「はい、送信と」  結果はすぐに返ってきた。 「あなたに合うお相手は……」  私はテンションが爆上がりする。 「えーカイくんじゃん!やった!!」  私はその日のうちにカイくんに告白した。  返事はもちろんオーケー。  人生イージーモードじゃん。  AIさえあれば私の人生は完璧。  でもある日カイくんに告げられた。 「ミユってさ、自己主張全然ないよね」  私は冷たい口調に固まる。 「え?なに?」 「全部他人任せじゃん。デート先も行く時間も俺ばっかり決めてる。ちゃんと楽しい?」 「う、うん。楽しいよ……」  正直期待はずれなところがあった。  趣味も好きなことも話が合わない。  それでもイケメンの彼氏がいるというステータスは嬉しくて得をしている気分だった。 「ミユ、俺をアクセサリーかなんかと勘違いしてない?俺と付き合う意味ある?」  なんでそこまで言われなきゃいけないわけ? 「もーいいよ!」 「おいミユ!」  私は髪をふり乱してかけ出した。  家に戻って携帯電話をベッドに投げつける。 「全然当たんないじゃん。この役立たず」   いつから私はAIアプリに頼るようになったんだろう。  それさえ思い出せない。  だって、自分の人生を決めるなんて面倒くさいじゃん。  責任とりたくないし、失敗したくない。  間違ってもそれは全部AIのせい。  電子音が鳴った。 「へ?なに」  アプリが勝手に開いて更新されていく。 「なになになに」  私は慌てて画面を何回もタップした。 『ミユさん中止しますか?』 「中止するよ!中止」  中止ボタンを押す。  そのとき視界がグルンと動いた。  え?なに。  画像越しに誰かが歩いてく。 「ユミー。ご飯できたわよ」  画像?  お母さんの声。 「わかった今行く」  ユミ?  今のは私の声?  どうなってるの?  ミユというのは私のアカウント名。  友人にはそのあだ名で呼ばれていたけど家族には教えてないのに。  ミユじゃなくてユミって呼ばれていたし。  なにが起きてるの?  携帯電話の表示が切り替わった。 『Me→You』  私からAIへ。 『You→Me』  AIから私へ。
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