4R 熱く燃える戦い

2/2
前へ
/44ページ
次へ
 皆に褒められて嬉しそうにしているアルテフェリーチェに、いつかの未来のムジークヴィントの姿を重ねる。いつか、そうなったら……。テレビから聞こえる大歓声に包まれながら、亜由美は馬券に書かれた『有馬記念』の文字を撫でた。  熱い戦いから数日後。ムジークヴィントはホープフルステークスに出走した。  パソコンで資料を作成しながら心ここにあらずという状態だった亜由美は、トイレ休憩に席を立ってレース結果を確認することにした。途中、給湯室から出て来た香奈とすれ違った。香奈は何か言いたそうにしていたが、そのまま席に戻って行ってしまった。  洗面台の鏡に映る不気味に笑う自分に引いてさらに不気味な笑みを浮かべながら、亜由美はスマホの画面をタップする。 「わ」  表示されたレース結果を見て、亜由美はつい声を出してしまった。 「え……」  画面をじっくりと見る。 「あ。あぁ、あ、あ……! あぁっ! やっ……!!」  小さくガッツポーズをして、握った拳の中に声を包み込む。  今年のホープフルステークス、一着は三番ムジークヴィント。若手のホープ速水勇樹騎手GⅠ初制覇。  画面に表示されているその文言を見て、亜由美は感動に打ち震えた。この後すぐに席に戻らなければならないということも忘れて、涙が溢れそうだった。なんとか堪えて、ガッツポーズを握り締めて大きく頷く。 「やった……! よく頑張ったね、おめでとう……!」  その日、亜由美の推しはGⅠ馬になった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加