6R ライバル出現!

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 皐月賞で優勝したムジークヴィントはクラシック二冠目とGⅠ三勝目を目指してダービーに挑む。とにかくすごいことしか分からなかったあのレースに、ムジークヴィントが出る。そう思うと、亜由美は昨日皐月賞が終わったばかりなのに、もうダービーが楽しみでならなかった。 「また、ムジークヴィントが……」 「そうなってほしい気持ちはありますが、そうはさせませんよ」  不意に真剣そうな声を出した香奈に、亜由美は目を丸くする。香奈が見せて来たスマホの画面には金色の鬣を持つ馬の写真が表示されていた。添えられている名前は、エイアイバイレ。 「ダービーはバイレくんが取ります」 「その子は……?」 「わたしの三歳世代の推しです。ヴィントくんは好きです。大好きです。でもデビューから応援してるこの子に、ダービーを取ってほしい。いや、どっちにも勝ってほしい。ううん、誰が勝ってもいい。でも、バイレくんが……。ん、難しい。いつもこうです。好きな子ばっかりで、困っちゃいますね」  香奈は苦笑する。そして、再び真剣な様子になった。 「この子は強いですよ、きっと。まだ重賞には勝てていないけど、必ずダービーには間に合いますから」 「ライバル、だね……」  エイアイバイレの次走は京都新聞杯。そこで賞金を積み立てることができれば、ダービーに出られるかもしれない。香奈はサンドイッチを片手にエイアイバイレの過去のレース映像を見返し始めた。  ムジークヴィントのことばかり見ている亜由美は他の馬のことをしっかりと認識したことがない。ところが、次のレースは他の馬のこともよく見えるレースになりそうだ。香奈のスマホに映っている尾花栗毛の美しい馬を見ながら、亜由美はその名を小さく呟いた。
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