7R お好きな馬はどの子?

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「十頭まで選べますけど、別に埋めなきゃいけないわけじゃないですからね。ヴィントくんとか投票すればいいと思いますよ」 「出なさそうな子に入れてもいいのかな」 「全然大丈夫ですよー。わたしダートの子にいれことありますもん」 「えっ、いいのそれ……」 「まあ下の方の順位だったんで別に……。でも、わたし以外にもこんなにたくさんこの子のファンがいるんだなー、っていうのが可視化されててちょっと面白かったですね」  亜由美はチラシに書かれている説明に目を通す。自分以外にムジークヴィントに投票する人はどれくらいいるのだろうか。少し、気になった。ホープフルステークスと皐月賞を勝っているムジークヴィントは世代最強かもしれないと言われている注目馬だ。ファンは亜由美が思っているよりもずっと多いだろう。  サンドイッチを食べる香奈と並んで座ってチラシを見ていると、外に昼食を食べに出ていた智司が戻って来た。自分の席に座っている香奈の後ろから覗き込むようにして顔を出す。 「駒村さん、芝崎ちゃん、何か作戦会議?」 「あ! 鞍田さん! 鞍田さんも一緒に考えますか?」 「ちょっと、芝崎さん……」 「何? 本当に作戦会議なの……?」  香奈は智司に宝塚記念ファン投票のチラシを見せる。 「馬の写真だ! 宝塚……きね、ん……? 投票?」 「鞍田君困ってるよ!」 「駒村さんと芝崎ちゃん、競馬とか見るんだ」  おじさんみたいって言われたらどうしよう! 香奈に競馬が気になることがバレた時と同じ焦りに、亜由美は襲われる。智司は少し驚いた様子でチラシの説明に目を通している。  やがて、説明を読み終えた智司が口を開く。「お」の形になっていく口を見て、亜由美は覚悟をした。言われる。おじさんみたいだ、と。 「面白い? 俺、あまり詳しくなくて。二人がいつも盛り上がってたのって競馬だったんだ」 「お、おじさんみたいだって思わない?」 「思わないよ。時代劇好きな若者とかゲーム好きなお年寄りとかもいるし。それでこれは……投票? 好きな馬に投票するの?」 「おぉ! どの子に入れるか考えましょうよ鞍田さん!」 「鞍田君を巻き込んじゃ悪いよ」 「誘われたら気になるな。教えて芝崎ちゃん」 「はい! 教えます!」 「えぇっ!?」  困惑している亜由美の前で香奈は丁寧な説明をし始めた。智司は興味深そうに話を聞いている。  このまま智司まで競馬沼に引き摺り込んでしまったらどうしよう。智司には彼女がいるのだから、他の女と仲良くしたり競馬にハマったりしては良くないのではないか。膨らむ不安に押し潰されながら、亜由美は改めてチラシを見る。
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