7R お好きな馬はどの子?

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 投票できる枠は十個。ある程度知っている馬は数頭しかいない。空欄があっても大丈夫とはいえ、空欄で提出するのはなんとなく嫌だった。小学生の頃から、亜由美はテストの答案をなるべく埋めるようにしている。アンケートなども同様だ。  全部を埋めるのは難しいかもしれない。それでも、今知っているより少しだけでも多く馬の名前を記入しよう。亜由美はチラシにスマホのカメラを向け、全体を撮影した。  帰宅後、亜由美はダービーの出馬表を確認した。それから、直近のGⅠの結果を検索する。名前を憶えていない馬達のことを知ろうとしたのに、ついつい皐月賞の映像を繰り返し再生してしまう。 「あぁっと、いけないいけない。……えーと。……アルテフェリーチェが二回出て来るな……」  大阪杯と天皇賞(春)を見返す。  アルテフェリーチェの走りからは目が離せない。あまりにも強く、あまりにも美しい。この馬を下した馬が二頭いるという事実に亜由美は震える。  昨年の皐月賞と菊花賞を検索する。アルテフェリーチェをそれぞれ二着に抑えて優勝した馬のうち、皐月賞馬は今年の初めに怪我で引退してしまった。菊花賞馬は海外転戦中で国内にいる間は休んでいることが多い。宝塚記念に出走することはなさそうだが、投票できるのは菊花賞馬の方だけのようだ。 「名前は……アオハルキネマ……。青春映画ってことかな。爽やかな名前だ」  アオハルキネマの名前をメモして、次に亜由美が開いたのはついこの間のオークスの結果が表示されているページだ。ムジークヴィントとエイアイバイレの同期である乙女達の戦いの結果である。  今年のオークス、着順表の一番上に輝く優勝馬の名前はミスフローリア。どこかで見聞きしたような気がして、亜由美はミスフローリアの詳細を調べる。オークスの中継で見たからではない。別のところでその名前を見た気がしたのだ。  辿り着いたのは、彼女の競争成績である。昨年の七月、ミスフローリアのメイクデビュー。一着になった彼女の名前のすぐ下に二着になった馬の名前が載っていた。  ムジークヴィント。  あの日、亜由美がムジークヴィントに視線も意識も心も持って行かれた日。観客に祝福されていた、一着になった馬。それがミスフローリアだった。 「活躍してるんだ、あの時ムジークヴィントに勝った子……」  初めてのレースで戦ったミスフローリアと再び相見えることはあるのだろうか。今はクラシック三冠と牝馬三冠それぞれのレースを選んでいるのでしばらくは遭遇することがないが、いずれ再戦することはあるかもしれない。 「それこそ……来年の宝塚で当たったりして」  いつかのリベンジを夢に描きながら、亜由美はミスフローリアの名前もしっかりと書き残した。
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