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0R あの日夢に見た場所
年末。千葉県船橋市。
会場は大いに賑わい、大人から子供までわくわくとした様子でプログラムを確認している。
今年もこの日がやって来た。あの人にとっては推しの晴れ舞台の日だ。その人にとっては一歩届かなかった推しのライバルへ声援を送る日だ。この人にとっては、とにかくみんなに頑張ってもらいたい毎日のうちの一日だ。
プログラムを手に、一人の女性が雑踏の中を歩いていた。肩にかけたバッグは彼女の推しのグッズで飾られており、身に着けたアクセサリーやネイルも推しをイメージしたものである。気合の入ったコーディネートで現れた彼女――駒村亜由美は、今日という今日を心待ちにしていた。
あの子がついにこの舞台に立つ。
出番まではまだまだ時間があるが、既に興奮は最高潮に達していた。会場の熱気が、声援が、足音が、人々を徐々に盛り上げていく。
さっきの子がかわいかったね、と親と話をしている子供の傍を通り掛かる。「さっきの子」はこれから幼い夢を乗せて走ることになるかもしれない。撤収していく「さっきの子」を目で追いながら、亜由美は自分が推しと出会った頃に思いを馳せていた。
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