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その声は、水本と月影と俺の三人しかいない教室内で、確かに、しっかりとこだましている。
誰の声だ?
そう思い、再び周囲を確認する最中、「こちらじゃよ」と誰かが俺に話しかける。
ふと、声の主の方に顔を向ける。
そこにあるのは、バケツや箒などを入れる掃除箱。
教室の後ろの角に置かれている、古びた鉄製の箱だ。
「大我。見えるじゃろ?聞こえるじゃろ?儂の存在が」
その掃除箱には、フサフサとした眉毛と、皺と、口があった。
え、掃除箱が、しゃべってる?
頭がフリーズする俺。
そんな俺に構わず、掃除箱はニコリと口元を上げ、こう言った。
「驚いたかえ?大我。でもな、これがいつも、礼が体験している世界なんじゃよ」
礼、とは、多分、月影のことだ。
俺は、信じられない気持ちのまま、月影に目をやる。
彼は、唇をぎゅっと噛みしめながら、そっと身体を起こした。
月影の身体が俺から離れた瞬間、掃除箱の眉と口が消え、謎の声も止まる。
「……ご、ごめんなさい。いきなり突き飛ばしてしまって。
でも、月影くん、今のって」
水本が唖然とした表情で尋ねる。
そこで俺は、水本が叫び、月影を突き飛ばした理由がようやく理解できた。
水本も、「今の状態」を体感したのだ。
しばらく口ごもっていた月影だったが、やがて重いため息を吐く。
そして、諦めたかのように口を開いた。
「……付喪神」
「……つく、も、がみ?」
俺は彼の言葉を繰り返す。
つくもがみ。聞いたことくらいはあるが、なんのことかはさっぱりわからない。
「付喪神って……、あの、長い年月を経て、魂を宿した道具、のこと?」
水本の問いかけに、月影は渋々といった感じでコクリと頷いた。
「まぁ、正しく言えば『付喪神もどき』だけど。
ここにあるモノは、そこまで年月を経ていない。
だから、話すくらいしかできない」
そう言いながら、月影はそっと、左右の腕を俺と水本の方に伸ばす。
彼の手が再び俺に触れた瞬間、また先程の声が響き始めた。
「もどき、とは失礼な!このままいけば、我々は神様になる存在なんだぞ!」
そう言いながら口を尖らせたのは教室の前にある黒板だ。
彼もまた、掃除箱と同じように、眉と口しかない。
が、掃除箱より若いのか、眉毛は細く、皺もない。
「まぁまぁ、いいではないか、黒板よ。
それより、詩織と大我。
これで分かったじゃろう?礼がなぜ、ボール箱が棚の上になかったことを知っていたのか」
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