17人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、怖いんだ。俺は。
謝っても、謝らなくても、俺は何かを失う。
でも、そんなことってあるか?だって俺は、なんにもしてねーんだぜ?
勝手に疑われて、勝手に犯人にされて。
でも、俺には抗うすべがない。だって周り全員が敵なんだから。
一呼吸置いた後、水本がもう一度口を開く。
「それでは、火村くんが犯人だと思う人は手を挙げ」
「……ちょっと待ってよ」
水本の言葉を遮るように飛び込んできた言葉。
その声はこう続く。
「もう少し、冷静に考えてみない?」
その声は、いつもなら「ぼそっとした、暗い声」に聞こえていただろう。
でも、今の俺にとってそれは、天からの声のように響いた。
皆が、その声の主の方を見る。
三列目の三番目の席。
クラスのど真ん中の席で、そいつは右手を挙げながら水本をじっと見ていた。
「……月影、くん?」
信じられないんだろう。水本は確認するかのように呟く。
そりゃそうだ。
月影 礼の声なんて、クラスほとんどのやつが、まともに聞いたことがない。
こいつが転校してきて約二ヶ月。
やつは、他人とつるまない。休み時間だっていつも一人で本を読んでいる。
最初はもの珍しさに話しかけていた連中も、次第に仲良くなることを諦めていた。
会話は最低限のものだけ。授業中、自ら手を上げて発表をすることもない。
そんな月影が今、手を挙げ皆の前で発言している。
しかも、裁判の「流れ」に反するかのように。
彼はちらっと俺の方を流し見る。
俺は一瞬ドキッとするが、月影は表情一つ変えず、再び水本に目をやった。
「最初から確認したいんだけどさ。
まず、この給食袋って、教室後ろの棚に置いてある、ドッジボール箱の裏から見つかったんだよね?」
尋ねる彼に、水本は「そうよ」と頷く。
「給食袋って、普通は机の横にかけておくものだよね。だけど、そんな場所から見つかった。だからこうやって、誰かが隠したってことになってるけど……。
本当にそうだと思う?」
「本当にって、他に何があるんだよ!
俺は確かに今朝、学校に来た時に給食袋を机の脇にかけたんだ。
だけど、4時間目の体育が終わって戻ってきて、給食食うぞって思ったらそれがなくて……。結局給食室から割り箸借りて食べるはめになったんだぞ!」
鈴木がつっかかる。が、月影は顔色一つ変えなてい。
本筋に関係なさそうな話は、完全に無視している感じだ。
最初のコメントを投稿しよう!