給食袋はなぜ無くなったのか

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そう、怖いんだ。俺は。 謝っても、謝らなくても、俺は何かを失う。 でも、そんなことってあるか?だって俺は、なんにもしてねーんだぜ? 勝手に疑われて、勝手に犯人にされて。 でも、俺には抗うすべがない。だって周り全員が敵なんだから。 一呼吸置いた後、水本がもう一度口を開く。 「それでは、火村くんが犯人だと思う人は手を挙げ」 「……ちょっと待ってよ」 水本の言葉を遮るように飛び込んできた言葉。 その声はこう続く。 「もう少し、冷静に考えてみない?」 その声は、いつもなら「ぼそっとした、暗い声」に聞こえていただろう。 でも、今の俺にとってそれは、天からの声のように響いた。 皆が、その声の主の方を見る。 三列目の三番目の席。 クラスのど真ん中の席で、そいつは右手を挙げながら水本をじっと見ていた。 「……月影、くん?」 信じられないんだろう。水本は確認するかのように呟く。 そりゃそうだ。 月影 礼の声なんて、クラスほとんどのやつが、まともに聞いたことがない。 こいつが転校してきて約二ヶ月。 やつは、他人とつるまない。休み時間だっていつも一人で本を読んでいる。 最初はもの珍しさに話しかけていた連中も、次第に仲良くなることを諦めていた。 会話は最低限のものだけ。授業中、自ら手を上げて発表をすることもない。 そんな月影が今、手を挙げ皆の前で発言している。 しかも、裁判の「流れ」に反するかのように。 彼はちらっと俺の方を流し見る。 俺は一瞬ドキッとするが、月影は表情一つ変えず、再び水本に目をやった。 「最初から確認したいんだけどさ。 まず、この給食袋って、教室後ろの棚に置いてある、ドッジボール箱の裏から見つかったんだよね?」 尋ねる彼に、水本は「そうよ」と頷く。 「給食袋って、普通は机の横にかけておくものだよね。だけど、そんな場所から見つかった。だからこうやって、誰かが隠したってことになってるけど……。 本当にそうだと思う?」 「本当にって、他に何があるんだよ! 俺は確かに今朝、学校に来た時に給食袋を机の脇にかけたんだ。 だけど、4時間目の体育が終わって戻ってきて、給食食うぞって思ったらそれがなくて……。結局給食室から割り箸借りて食べるはめになったんだぞ!」 鈴木がつっかかる。が、月影は顔色一つ変えなてい。 本筋に関係なさそうな話は、完全に無視している感じだ。
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