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「月影くんは、何が言いたいの?」
水本の問いかけに、彼は静かに答える。
「別に、偶然そうなったってことも、考えられない?
故意にじゃなくて、偶然、そうなったってこと」
「はぁ?!」
顔を赤くした鈴木がバンと机を叩く。
「机の脇にかかってたものが、偶然、そんなところにいくはずないだろ!
給食袋が勝手に歩いていって、ボール箱の裏で座り込んだとでも言うのかよ?」
鈴木の声に熱が籠もるが、それでも月影はうろたえない。
「モノは、動くことはできないよ」
「わかってるよ!じゃあどうやって」
「今日の体育って、ドッジボールだったよね?
じゃあ、あの箱って、体育の時にはそこになかったんじゃないの?」
急にクラス全員が静まりかえる。
俺は、周りの空気が微妙に変化するのを感じた。
「例えばだけど、何かの拍子に鈴木くんの給食袋が床に落ちた、とする。
それに気がつかずにみんな体育の授業に行く。
その後、火村くんが赤白帽を取りに教室に戻り、そこで床に落ちた給食袋を見つける。
その袋、黒い布地に黒いマジックで名前が書いてあるよね?だから、ほとんど目立たない。
火村くんは、給食袋を拾ったはいいけれど、誰の物かまでは分からなかった。
それで何の気なしに、後ろの棚に置く。
その後に体育委員が帰ってきて、袋の前にボール箱を置けば、ほら、袋は偶然隠されたことになるんじゃない?」
月影はそう言い終えると、ぐるりとクラス全員を見回した。
俺も、鈴木も、そして水本も、何も言い返すことはできない。
数秒の間の後、水本が口を開く。
「火村くん、教室に戻った時に、その給食袋、拾ったの?」
俺はごくりと唾を飲み込む。
確かに、赤白帽を取りに教室に戻った時、足下に何かが触れた。
だけど俺は、帽子をぐちゃぐちゃのロッカーから取り出すのに必死で、あまり意識はしていなかった。
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