給食袋はなぜ無くなったのか

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足下にあった「何か」を、俺はほぼ無意識にロッカー横の棚の上に置いた、ような気がする。そして帽子を見つけた俺は、一目散に教室を出て行った。 給食の時間、確かに鈴木は何か騒いでいた。 だけど俺は、今日の給食のクリームシチューをおかわりすることだけに気がいっていて、給食袋がなくなっていたことは知らなかった。 そして掃除の時間、例の袋がボール箱の後ろから見つかり、俺はこうして、裁判にかけられることになったのだ。 「火村くん、給食袋を、棚の上に置いたの?」 水本の二度目の問いかけに、俺はハッと我に返る。 俺は確かに、何かを拾って棚の上に置いた。 でも、ほぼ無意識の中でしたことだし、はっきりとした記憶はない。 だから俺は、小さな声で「置いた……かもしれない」と答えた。 「かもしれないってなんだよ!」 鈴木が再び声を張る。 「それに月影、今の話は、おまえのただの空想話だろ? 火村が隠してないって証拠にはなんねーだろう!」 再び月影にかみつく鈴木。やつは俺を犯人扱いし、帰りの会で皆に訴えた。今更引き下がれないんだろう。 だけど、月影は冷静だった。 「ボール箱が体育の時間に棚の上になかったと考えると、火村くんが体育の授業中に故意に隠すことはできないよね? だって、棚の上に置いただけでは、給食袋は隠れないんだから。 他の時間に隠されたって線もないこともないけれど、難しいと思う。 クラスには常に誰かがいるし、目撃者がいるかもしれないのに、そんなことするのはリスクが高い。 それに……」 月影が一瞬口ごもり、俯く。 なんだと思いながらやつを見つめていると、彼は再び顔を上げた。 「火村くんって、そんなことをするやつじゃ、ないと思うんだよね」 俺は一瞬、息をのむ。 月影は平然と続けた。 「火村くんって、確かにケンカっぱやいし、人と言い争いになることも多いけれど、基本、明るくて元気なキャラでしょ? だから、こっそり物を隠すようなタイプじゃないと思うんだよね。 むしろ、我慢できないほど気にくわないことがあれば、先に手が出るようなタイプじゃない? 別に、どっちが良い悪いって話じゃないけどさ」 すると、教室内から小さなささやきが聞こえ始めた。
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