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「おまえ、しゃべんのな!」などと奴らは話しかける。が、月影は相変わらず「あぁ」とか「別に」とか、釣れない返事を返している。
やつに話しかけるタイミングを伺っていると、不意にトンと背中を叩かれた。
振り向くとそこには、鈴木が立っていた。
「……大我、悪かったな、疑って。
朝言ってたゲーム、貸すのは嫌だけど、一緒にやるのはいいぜ。今からうちに来ねーか?」
鈴木はばつが悪そうにそっぽを向いている。
俺は一瞬の間の後「あぁ、行く、行くに決まってんだろ!」と答えた。
こうして俺は、月影に話しかけることなく教室を出た。
俺の周りには、いつも通り、再び人が集まりだし、下駄箱にたどり着くころには友達五、六人でふざけ合いながらしゃべっていた。
しかし、ふと、思う。
こいつら、今、俺と笑い合ってしゃべっているけど、さっきまで俺の「敵」だったよな。
俺が立たされて、犯人扱いされている時、誰も助けてくれなかったよな。
――火村くんって、そんなことをするやつじゃ、ないと思うんだよね
ふと、さっきの月影のセリフが頭をよぎる。
俺は、月影と遊んだことはない。どころか、まともにしゃべったことすらない。
だけどあいつは、俺のことを信じてくれていた。
敵だらけの中で一人、俺の味方でいてくれた。
(やっぱ、今、礼を言うべきだ……)
「どうした?火村」
友達の一人が俺に尋ねる。
俺は一瞬言葉に詰まるがすぐさま
「悪ぃ、ちょっと教室に忘れ物した。おまえも今日鈴木の家に行くだろ?
ちょっと遅れるって言っておいてくれよ」
そう言い残して、教室へと駆けた。
長引いていた学級裁判に皆、うんざりしていたんだろう。
皆下校したのか、教室へ続く廊下では、クラスメイトの誰ともすれ違わない。
月影ももう、帰ったかもな、なんて思いながら教室のドアに手をかけた時、クラスの内側から密かに声がするのがわかった。
「……おかし……なと思って」
誰かに話しかけるような声。それは、女子の声だ。
俺は、一瞬手を止めるも、そろりそろりと、ドアを引く。
そして顔の半分だけを覗かせる。と、そこにいたのは、学級委員長の水本と月影だった。
水本は、席に座る月影の前で手を組み、何かを話している。
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