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「……何がおかしいの?」
月影は、うんざりしたような表情で水本を見上げている。
「さっき、月影くん言ってたでしょ?今日の体育はドッジボールだったから、ボール箱は棚の上になかった。
だから、火村くんが、その裏側に給食袋を隠すことは不可能だって」
「言ったけど、それが何?」
水本は一瞬口を結ぶ。が、鋭い眼差しを彼に向けたまま、言う。
「月影くん、なんでボール箱が棚の上になかったことを知っていたの?」
すると、月影は一瞬肩をすくめた。
そこで俺はふと思い至る。
確かに、ドッジボールを行う時、普通体育委員はボールのみを持って行く。
邪魔なので、箱ごと持っては行かない。
「……見たんだよ。体育委員が箱を運んでいるところを。
理由は知らないけれど」
月影は俯きながら答える。が、水本は間髪入れず「嘘よ」と発した。
「月影くんっていつも、体育の授業の時は誰よりも早く教室を出るし、授業後は最後に教室に戻ってくるよね?まるで人を避けるように」
「それがどうしたの?
僕は運動場に先に着いた。あとから体育委員が、運動場までボール箱を持ってくるのを見た。何も矛盾はないよ?」
「いいえ、あるわ。だって、今日、体育委員は運動場まで箱を持って行っていないもの」
水本の指摘に、月影は思わず顔を上げる。
「……そもそも、ドッジボールの時って、ボールだけを持って行くのが普通でしょ?
でも、今日、体育委員の小島さんは、ボール箱ごと持って教室を出たの。
箱にはボールが二つ入っているでしょう?
大きめの3号ボールと小さめの2号ボール。
彼女は、どちらを体育で使うべきなのか分からなかったの。
かといって、小柄な彼女では、二つのボールを直接抱えるのは難しかった。
だから小島さんは、箱ごと持って教室を出たの。
私、実は小島さんと靴箱で会ったのよ。
小さな彼女が大きな箱を抱えていたから、声をかけたの。
それで事情を聞いた上で、体育の場合は3号ボールを使うと伝えたわ。
だから彼女は、3号ボールだけを運動場に持って行って、2号ボールは箱ごと靴箱の横に置いていったの。
つまり、ボール箱は靴箱までしか運ばれなかったから、すでに運動場にいた月影くんがそれを見ることはないはずなの。
ちなみに、あなたはいつも最後に教室に戻ってくるから、あなたが教室についた時点で、もうボール箱は棚にあったはずよ」
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