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恋に落ちた日
あたし、鳥山ももか。東野小学校4年。あたし、今、恋をしています。
彼を初めて見たのは、先々週の土曜日。愛犬のミルク(オスのラブラドールレトリバー3才)のさんぽに、ちょっと遠くの公園まで行った時のこと。
その公園、散歩中のワンちゃんや歩いてる人、走ってる人、小さい子どもたちなんかもたくさんいて、とってもにぎやか! 人が大好きなミルクは、いろんな人にかまってもらえて、大満足って感じだった。
いっぱい遊んで、そろそろ帰ろうとした時、彼を見付けたの。彼は、大きくて重そうなカバンを肩にかけて、早足で歩いてた。メガネをかけた横顔、白く細い腕、スラリとした長い足、さっそうと歩く姿。クラスの男子とは、全然ちがう! 全部がカッコいい!
目をハートマークにしながら、彼の姿が見えなくなるまで、見続けた。
その夜は、彼のことを考えてなかなか眠れなかった。
「彼はどこから来て、どこに行ったのかな……」
答えは、すぐに出た。彼が来た方向には、図書館がある。それに、あの大きくて重そうなカバン。中身はきっと、図書館で借りた本。夕方だったことから考えて、家に帰る途中。歩いていたから、家も近いはず。つまり
「あの公園に行けば、彼にまた会える!」
うれしくてますます眠れないかと思ったけど、気が付いたら朝になってて、ミルクに顔をなめられて目が覚めた。
それから毎日のように、ミルクを連れてあの公園に行った。だけど、彼の姿を見かけることはなかった。
そして、土曜日。毎日のお祈りが効いたのか、たんに彼の習慣なのか分からないけど、とうとう彼を見付けた。重そうなカバンを持って、図書館からこっちの方に歩いてくる。
「行くよ、ミルク!」
彼に向かって走りかけた足を、数歩で止めた。突然、リードを引かれたミルクは不服そうな顔であたしを見上げたけど、あたしはミルクを無視して考える。
——彼のところに行って、どうするの? なんて話しかけるの?
いきなり「あなたに一目ぼれしました!」なんて、言えない! 「お友達になって!」も、アウトだ。彼に『変な子』と思われてしまう。
どうしようもない気持ちを抱え、彼の方に行こうとするミルクを必死におさえながら、彼が通り過ぎるのを静かに待った。
「どうやったら、彼と知り合えるのかな?」
誰かに相談したい。だけど、知らない男の子と仲良くなりたいなんて、友だちにも言えない。パパやママには、もっと言えない。
そんな、誰にも言えない悩みを相談できる相手を、あたしは1人(?)しか知らない。
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