<1・一目惚れは突然に。>

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<1・一目惚れは突然に。>

 一目惚れは突然に、なんて。少女漫画や少女小説では、ありがちな書き出しに違いない。  人間が恋をするなら、相手の性格をよく知り、価値観が合うかどうかを認識してから。秋野ひかりもそう思っていた。思っていたのだけれど。 「……綺麗」  五年生になって最初の日。クラス替え表を見ていたひかりは丁度横を通り過ぎていった少年に――思わず魅了されていたのだった。  少し長めの、さらさらの黒髪。眼鏡をかけているけれど、それがむしろ知的なイメージを加速させてむしろマッチしている。背がものすごく高いわけではないけれど、足は間違いなく長い。そしてスタイルがいい。  眼鏡の奥、音が鳴りそうなほど長い睫毛と、星屑を散らしたような瞳。まるで芸術作品ではないか。 「……おい、どした?どしたんだねひかり?」  すぐ隣で、友人の夏木マチカが声をかけてくる。ひらひらと目の前で手を振られていることはわかっていたが、すぐに反応することはできなかった。  視線が、彼のことを追いかけて止まらない。心臓の奥から一気に血が沸いて、全身をアツアツに沸騰させるようなこの感覚。  もしやこれが、一目惚れというやつなのではあるまいか。 「……マチカちゃん」  ぎぎぎぎ、と油の切れたブリキ人形のような動作で、ひかりは親友を見て言ったのだった。 「私、恋ってやつをしちゃったかもしれない。落ちた、完璧に。一瞬にして」 「……ハイ?」  それが、秋野ひかりの恋の始まり。  そして、とんでもない修羅場と冒険の幕開けでもあったのである。
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