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ジト目で睨みつけてやると、まったくもう、と彼女は肩をすくめた。どうやら急病人が出たとかなんとかで、先生達がバタついている。本来ならこのまま朝のホームルームが始まるところだったのに、一向に教室に先生が来る気配がない。
ちらり、とひかりは窓の外を見た。今年はまだ桜が校庭に残っている。もちろん殆どが葉になっているが、一部花が残っていてひらひらと花びらを散らせているのだった。春風祈なんともこの景色に相応しい、素晴らしい名前ではないか。
「お前、ちょっと前までは一つ上のテニスクラブの先輩がかっこいいとか言ってなかったっけ?」
呆れたように言うマチカ。
「先生がイケメンで素敵とか言ってた時もあったよな。それから、後輩の男の子が食べちゃいたいとか言ってた時も……」
「あー、うるさいうるさいうるさい!それはちょっと素敵だなーって思っただけ!本当に恋をしたわけじゃないんだから!そもそも、私はこれでも一目惚れって信じてない派だったの。それなのに今回はびびーんて来ちゃったの!間違いなく本物の恋なの、お分かり!?」
「はいはい。……段々つっこむのもアホらしくなってきたぜ」
そう、過去にもカッコイイと思った男子や年上の先生、アイドルなんかがいなかったわけじゃない。でも、いつもは精々“遠くで見つめていればそれで幸せ”くらいの感情だったのだ。
いわば、アイドルを応援したいファンくらいの心情だったと言えばいいか。
今回は違う。何故か、自分でもそう強く確信できる。今回全身にびびびびび、と来た感覚は、紛れもない恋であるはず。でなければ、こうも四六時中、祈少年のことばかり考えているなんてことはないはずなのだから。
「仕方ないなあ。……つっても、俺も春風くんについて、そんなに詳しく知ってるわけじゃねーぞ?」
ひかりの熱意に押されてか、マチカは呆れたようにため息をついた。
「ただ、そうだなあ。……一つ変だなーって言われてることがあってさ。うちの学校、クラブ活動ってのがあるだろ?週に一日、クラブ活動する日があるというか。やれ美術クラブとか漫画クラブとか、サッカークラブとかいろいろあるわけだけど」
「うん、あるね。それが?」
「春風くん、去年転校してきて早々、自分で新しいクラブを作っちゃったみたいなんだよ。なんだっけ、確か……秘宝管理クラブつーの?」
「ひほうかんり、くらぶ?」
思わずオウム返しに尋ねるひかり。あまりにも斜め上で、理解の範疇外だったと言えばいいだろうか。ひほう――秘宝。秘密のお宝。それを、管理するクラブとは、一体どういう活動内容なのだろうか?というより、秘宝とは一体?
「な?変なクラブだろ?しかも、部員を全然募集してないんだと。春風くん一人しかいないクラブなんだって」
変だよなー、とマチカは手をひらひら振って笑った。
「既定のクラブ活動をする日、以外でもなんか活動してるっぽいぜ。放課後とか、部室に入っていくのを見たって人がいるらしい。……なんなら覗いてみたらどうだ?その部屋」
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