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<2・秘宝管理クラブへようこそ。>
ごくり、と唾を飲み込み。深呼吸して、ドアに手をかけて。
何故だろうか。――往々にしてそのタイミングで、人は声をかけられるものなのである。
「何をしているんですか、そこで」
「q3mp:4jc、:ぴcqj。:pfkrx。@rkx・q@zrkqpみrxjfq、09pr3:。ぞq7!?」
我ながらめっちゃ変な声が出た。ついでに思い切りスッ転んだ。尻餅をつきそうになったところ、後ろにいた誰かに体を支えられることになる。
ふわり、とオレンジのような甘い香りが漂った。香水というほどきつくはなく、されどシャンプーにしては濃厚な。
いや、それよりも、今聞いた声は。
「ままままま、まさか」
なんとか体勢を立て直し、振り返る。
「春風くんっ!?」
「はい、僕が春風祈ですが……」
どこか不思議そうに小首を傾げる彼。見間違えるはずもない、一目惚れをしたまさにその相手だ。少し長めの黒髪が、首を傾げた拍子にさらりと横に流れる。まるでお人形のような美貌。正直、真正面に立っているだけで目の保養を通り越して目に毒なほどである。
「えっと、この部屋に何か御用ですか?ここ、うちのクラブの部室なんですけど……」
「あ、あ、えっと、それはですね、ていうかあのですね、えっとですねえ!」
そういえば、彼は誰に対しても丁寧な言葉遣いを崩さないタイプだと聞いたことがあったような。だからだろうか、より一層上品なお坊ちゃん感が出ているのは。
引きずられるようにして、ひかりもエセ敬語モードに入ってしまう。普段は人に丁寧語を使うことなんて先生くらいにしかないというのに。
「わ、私その、その……秋野ひかりと言いますが!秘宝管理クラブってやつに興味があって!な、な、何やってるところなのかなあって!だ、だ、だから!」
流石にストレートに“本当に興味があるのは春風くんです”だなんて言えない。ひっくり返った声でわたわたと説明すると、心なしか彼の気配が変わったような気がしたのだ。そう、困惑したものから、少しだけ緊張したようなものに。
「……そうですか」
数秒の沈黙の後、祈は前に出て自らドアを開けたのだった。
「でしたら、ご案内しますよ。ようこそ、秘宝管理クラブへ」
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