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悪いのは僕だ
僕が2つ目の大きな溜め息を零した時、少し息を切らせた朔が上から覗き込んできた。朔の怒った顔を見上げ、思わず上擦った声を上げる。
「んわぁっ!!?」
「お前なぁ··いい加減にしろよ····」
そう言って僕の顎を持ち、そのまま食べるようなキスをした。周囲から黄色い悲鳴が聞こえる。
「はぁ····甘ぇ」
「ご、ごめんなさい····」
急な出来事に唖然として、僕は素直に謝った。朔は『とにかく無事でよかった』と言って、しれっと隣に座る。
そして、りっくんと啓吾、それに真尋が、それぞれ飲み物を片手にやってきた。待ち合わせでもしていたかのように、自然に集まってくる。
3人は、真後ろのテーブル席に座った。タピオカ入りの紅茶を啜り、一呼吸おいて真尋が僕に話しかけてくる。
「結にぃ、マジでGPS仕込まれてんだね」
「当ったり前だろ。こんなん日常茶飯事だかんね?」
「マジか····。結にぃ、ちょっと落ち着こうね?」
僕はまた、しゅんと落ち込んでココアを啜る。朔にはお小言を唱えられているし、これ以上ヘコみようがないくらい気分が落ちてしまう。
そんな僕に、八千代がおやつにとホットドックを買ってきてくれた。これまたたんまりと。単純な僕は、嬉々として手を伸ばす。お腹いっぱい食べて、元気を取り戻すんだ。
朔と反対側に座った八千代が、勢いよく食べる僕を見て微笑んでいる。柔らかい雰囲気に、僕の心が落ち着いてゆく。
ふと手を伸ばしてきて、口端についたケチャップを指で拭ってくれた。そして、当たり前のようにそれを舐める。
きっと、八千代の仕草が無駄にえっちだからだろう。近くの席からこっちを見ているお姉さん達が、小さな歓声をあげた。こんなえっちな八千代、僕だけが知ってたいのに····。
なんて我儘を思いムスッとしつつも、もりもりと食べる僕。沢山歩いたから、実はすっごくお腹が空いていたのだ。
そうして、僕が5個目のホットドックに手を伸ばした時だった。啓吾が後ろから僕を抱き締めて、耳元で囁くように言ったんだ。
「ウインナーばっか食ってないでさぁ、俺のちんこ食えよ♡」
吐息混じりの甘い声。慌てて耳を隠し、おバカな啓吾に文句を放つ。
「ひぁぁっ!!? なっ!! け、啓吾のばかぁ! ばぁかばぁぁぁか!! なんで外でそういう事言うの!? えっちぃ!」
「ほーら、お店で騒がないの。ねぇゆいぴ、外で『えっちぃ』はマズくないんだ?」
りっくんに言われハッとする。周囲のお客さんが、訝しげな眼差しを向けている。いたたまれず、朔に隠れるように小さくなってホットドックを頬張る。
そんな僕を見て、啓吾がお腹を抱え涙を滲ませながら笑う。
「あっはは! 俺マジで結人にバカって言われんの好きだわ〜。めっちゃ可愛い♡ しさぁ、そう言うガッてした感情ぶつけてくんの俺らにだけだから嬉しい♡」
そう言って頬にキスをする。だから、外なんだってば。
「それ分かる。ゆいぴさ、絶対俺ら以外には悪口とか言わないもんね」
「冬真には言ったよ?」
すかさず、真尋が『冬真って誰?』と突っ込む。りっくんが大まかに説明してくれる。抱かれた事があると言った時の真尋の顔は、眉間を中心に皺くちゃだった。
前にも軽く触れていたが、名前を出すのは初めてだったようだ。今は猪瀬くんという恋人が居るから、もう僕に興味は無いのだと言うと、不機嫌ながらも安堵していた。複雑な心境が顔に出ていて、面白いし可愛い。
僕がおやつを食べ終えると、部屋に置くお香を見に行こうと言って、啓吾が僕の手を引いた。八千代に、殆ど部屋に居ないのだから無駄だと言われる啓吾。だが、気分を落ち着けるために欲しいのだと、啓吾は聞く耳を持たなかった。
八千代曰く、自室には寝る時くらいしか居ないらしい。僕たちが帰った後も、暇だなんだと言って居座るのだとか。寂しがり屋の啓吾らしいや。一緒に住み始めたら、24時間、片時も離れないんだろうな。
想像して、ふふっと笑みを零してしまった。そんな僕を見て、真尋は困ったように微笑む。僕の妄想の中に、自分が居ない事を察しているかのようだ。
「ねぇ、真尋はどんな匂いが好き?」
「ん? 俺はねぇ····これ」
真尋が手に取ったのは、フローラル系の物だった。ほんのりと甘い香りがする。勝手なイメージだけど、エキゾチックな香りが好みだと思っていたから意外だった。
「なんかさ、これ結にぃっぽくない?」
真尋がそう言うと、皆も嗅いで全員それを買っていた。冗談だと言ってほしい。
僕は、試しにトロピカル系の甘ったるい匂いの物を買ってみた。帰ったら、早速焚いてみよう。
会計を済ませて店を出ると、皆から火の取り扱いには重々注意するようにと念を押された。朔なんて、『なんなら、危ねぇから一緒に住むまで使うのは待ってほしい』と言い出す始末。
本当に心配性が過ぎる。蚊取り線香に火をつけた事だってあるんだから、それくらい大丈夫だと豪語しておいた。
八千代の家に戻ると、あけすけに真尋がかましてきた。
「ねぇ、せっかく恋人体験してるんだしさ、もっとエッチしたいんだけど」
「「「「は?」」」」
至って真面目な顔で言う真尋に、僕は肩を落として言う。
「あのね真尋、僕たちね、えっちばっかりシてるわけじゃないんだよ?」
だけど思い返せば、そう言うところしか見せていなかった。デートなんて初めてだったんだもの。仕方ないと言えばそうなのかもしれない。
まぁ、僕たちの新しい一面を見て、出てきた言葉がこれかと思うと残念だ。けれど、真尋の焦っている様子も見て取れるだけに、なんとも言ってあげられない。
「お前なぁ、あんま調子こいてんじゃねぇぞ。体目当てじゃねぇつっただろうが」
「分かってるよ。俺だって体目当てじゃないし。けどさ、俺としては合法的に結にぃ抱けるんだし、身体でもオトして保険かけときたいんだよね」
おっぴろげにも程があるだろう。真尋の中で、僕を快楽で虜にすればクリアだとでも思っている節がある。それは違うと何度言っても、『結局オチるんでしょ?』と返してくる。
まったく、埒が明かない。そもそも、恋人“体験”なのに、えっちまで許可した覚えはない。
そういえば、体験が始まった翌日から抱かれたっけ。皆がシてるのに混じってシてたから、あんまり覚えてないんだけど。皆が許可したのだろうか。
「あのね、今更なんだけど····。僕、真尋に抱かれてていいの?」
「今は結にぃの恋人だもん。ダメな理由がわかんないよ」
「まぁ、そういう事だ。それについては半日話し合って、水掛け論でキリがねぇから俺らが妥協してやった。真尋だけヤラせねぇのはフェアじゃないとか言われちまったしな」
「ゆいぴに相談もなくごめんね。けど、同じ土俵に立ってそこから蹴り落としてやったら、もう這い上がって来れないかなって。ね」
朔とりっくんは、とても容認したとは思えない表情で言った。余程、真尋の我儘に耐えてくれているのだろう。
「ねぇ〜、俺もお泊まりしたいんだけど。朝まで結にぃのこと抱いてみたい」
僕たちが話していると、また突拍子もない事を言い始める真尋。もう僕はキャパオーバーだ。
「おっまえ··いい加減にしろよ····」
八千代が歯を食いしばって言う。その拳は、今にも真尋に飛んでいきそうだ。僕は、慌てて八千代を宥める。
「八千代、ごめんね? お泊まりは流石にだよね。大丈夫だよ。ちゃんと帰らせるから」
「えー、やだよ。俺、絶対帰らないからね。俺ね、体力には自身あるよ」
そう言って、真尋はとても良い笑顔を見せてくれる。僕の肩に腕を置き、後ろで手を組んでいるから逃げられない。
僕はたじろぎながら、真尋の胸を押し返す。が、全く押し返せない。ホント、バカみたいに馬鹿力なんだから。
そして、唇が触れそうな距離で甘く囁く。
「結にぃのこと、朝までずーっとイカせてあげるよ? おちんちん··欲しくない?」
「ひぅ····ほ、欲しい······」
僕はギュッと目を瞑って、つい本音を漏らしてしまった。直後に、皆の落胆した溜め息が聞こえる。
「「「「ハァァ······」」」」
「はぅっ····ご、ごめんなさい······」
「ふはっ、もういいよ。今更すぎだわ。ま、真尋には思い出くらい作らしてやんねぇとな。俺ら大人だしぃ?」
と、啓吾が大人ぶる。僕の次に子供っぽいのに。
その後も、あーだこーだと賛否は別れたが、結局皆が折れてお泊まりが決定した。
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