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また一波乱
りっくんと啓吾への愛おしさを感じながら、僕は快楽に塗れて眠った。起こされた時には身綺麗になっていて、帰る支度までバッチリだった。
玄関で、啓吾にバイバイのキスをした。駐輪場に降りて、りっくんと朔にもバイバイのキスをする。これは僕からする日課。漸く、テレずにできるようになったのだ。
けれど、『バイバイ』と言って手を振る寂しさには慣れない。こうして、帰る間際に寂しいと思うのもあと少しの辛抱だと、最近はずっと自分に言い聞かせている。
八千代はバイクで僕を送り届けると、母さん達に挨拶をして帰った。皆のお泊まりが順に済んで、ようやく一息····と思っていたのだが、最後にとんでもないのが来た。
僕は夕飯にがっつきながら、学校生活に慣れてきた事なんかを話した。皆に迷惑を掛けないようにと、父さんから口酸っぱく言われて少し憂鬱になった。そんなの、僕が一番思ってるよ。
お風呂を済ませ、自室で皆に連絡をしようとスマホを開く。その瞬間、部屋の扉が静かに開かれた。侵入者の正体は真尋だ。僕は、驚きすぎて声も出ない。
真尋は、ドアを閉めると同時に鍵を掛け、瞬く間に僕からスマホを取り上げる。そして、僕の両手首を持ってベッドに押し倒した。
「ひぁっ」
「結にぃ、こういうの好きなんだよね」
「あぅっ····す、好きじゃないもん! 離してよぉ!」
「しぃー··静かにしてね。おばさん達来ちゃうよ? ····あは♡ 好きじゃないのにちょっと勃ってるね。期待してるんでしょ? こうやって、このまま襲われるの」
違う。期待なんかしていないもん。なのに、真尋が膝で刺激を与えるから、ムクムクと育ってしまう。
首筋に這わせる唇が、少し震えているのは気の所為だろうか。耳元で囁かれるその声は、とても甘いが力強い。少し怒っている気がする。
「どうせ、今日も抱かれてきたんでしょ? ね、結にぃに挿れたい。俺の、結にぃで包んでよ····」
部屋に押し入ってから、わずか数分でこれだ。あれよあれよにも程がある。
「ダメだってば! 真尋とはシな──んんっ」
真尋が、騒ぐ僕の口を塞ぐ。熱を持った舌を、激しく絡めるおまけつきだ。
僕は、必死に抵抗する。と言っても押さえ込まれているので、顔を背ける程度しかできない。
まず、どうして真尋がここに居るのか、だ。僕は、なんとかキスを躱しながら聞く。
真尋曰く、“部活で遅くなったから泊めて欲しい”と、母さんに電話を入れていたらしい。そうして、僕がお風呂を出た直後くらいに易々と、僕に気付かれないように上がり込んだのだ。
そして、真尋の本性など知る由もない母さんが、あっさりと部屋に通してしまったのだろう。
それはそうと、真尋は僕を襲う為に来たのだろうか。もしかすると、また情緒がぶっ壊れているのかもしれない。高校生になって周囲の環境が変わっただろうし、学校で何かあったのかもしれない。
できれば、傷つけないように離れさせて、話を聞いてあげたいな。そうすれば、落ち着くかもしれない。
そんな僕の優しさなど他所に、真尋は例のものをチラリと睨んで言った。
「ねぇ、部屋に入った時から気になってたんだけどさ、あれ何? 前に来た時、なかったよね」
皆から言われた通りこれみよがしに、チェストの上に飾っていたピアスの事だ。皆で撮った写真の隣に、ケースに入れたまま蓋を開けて置いている。
それを見た真尋の表情が、イラつきで歪む。股間に当てる膝をグッと押し込むから、小さな悲鳴をあげてしまった。
抵抗虚しく、下半身をひん剥き指でお尻を弄る真尋。弄ってる間に言わなきゃ、おちんちんを挿れるだなんて脅してくる。隠すつもりなんてないのに。
僕は嬌声を零しながら、ピアスについて説明する。
「ふーん。アイツらに穴空けさせるんだ。クソッ····アイツら、俺対策でそんな事までさせんの? マジでムカつく····」
真尋は僕から指を抜くと、ケースの蓋を閉じに行った。そして、再び僕を押さえ込むと、僕の耳にそぅっと手を添えた。
「これ、こんなの着けちゃってさ。結にぃ、こんなのつけるタイプじゃなかったでしょ? なんか、どんどん変わってくね····」
真尋はイヤーカフごと耳を握り、寂しそうな表情で言った。確かに、皆と居て変わった所は多いと思う。けれど、それだって僕なんだ。
真尋もきっと、それを分かっているからそれ以上は何も言わない。だけど、その今にも泣き出しそうな表情だけで、嫌だと訴えているのが充分汲み取れる。
そして、真尋は歯を食いしばり、先っちょを少し押し込んだ。
「真尋、おちんちん挿れないで。ちゃんと言ったでしょ。それとね、あのね、させられるんじゃないんだよ? 僕が空けたいって言ったからなんだ──ひぁっ、待って····ねぇ、ダメだよ。こんなの··う、浮気になっちゃう····」
「大丈夫だよ、結にぃ。俺、本気だから浮気じゃないよ」
「んぇ····? 浮気にならないの?」
「結にぃが俺のこと好きになればいいんだよ。んで、俺も一緒に暮らす。もうアイツらと一緒でもいい。恋人のうちの1人でも··いい····。俺、ずっと結にぃと居たい」
真尋は、僕の顔を胸に埋めながら言う。力一杯抱き締めるから、息ができなくて頭がクラクラしてきた。
「んんっ、んーっ」
僕がもがくと、それに気づいた真尋が腕を弛める。
「ぷはっ··ハァ··し、死ぬかと思った······」
「ごめん、結にぃ。····俺さ、やっぱ結にぃのこと諦められない。から、ちゃんとアイツらとも話そうと思ってるんだ。俺が子供だって言うんなら、頑張って早く大人になるから····だから、その前にさ、結にぃのホントの気持ち、聞かせて?」
襲っておいてよく言えたものだ。けど、真尋なりに向き合おうとしているのは、どうやら嘘ではないらしい。今日はその為に来たのだろう。
「俺のこと、男として見れない?」
「····っ、男··として····」
抱かれた時の事を思い出してしまう。一度抱かれてしまったのだ。もう、男として意識しないなんて無理に決まっているじゃないか。
あれ以来、真尋をこれまで通り従兄弟として見れていない。弟として見ているだなんて、自分と皆への言い訳だ。
「真尋は····もう、僕の中では1人の男として意識しちゃうの。ずっと、可愛い弟だって思ってたはずなのに、もうそんな風に見れないよぉ」
僕は堪らず、顔を覆って涙を溢れさせた。真尋への気持ちなんて、僕が誰よりも教えてほしい。
今分かるのは、皆への想いとは違うけれど、真尋を手離したくない気持ちは確実にあるという事。それが、好きだとか愛だとか、そう言えるもなのか定かではない。
皆と話さなきゃいけないのは、僕だって同じだ。
「ねぇ結にぃ、もう一回だけ流されてよ。結にぃは悪くないから。俺が、無理やりするんだよ。····ね?」
そう言って、真尋は亀頭まで挿れてしまった。前よりも少し、大きくなったんじゃないかな。真尋が強引に作った曖昧な空気の中で、そんなくだらない事が頭を過ぎる。遠慮がちに入ってくるその圧迫感に、僕は軽くイッてしまった。
その時、僕のスマホが鳴った。大音量に驚いて、加減を誤る真尋。グッと奥まで入り、今度は深くイッてしまった。
真尋は抜かないまま、慌てて電話を切る。直後に再び鳴り響く。厄介なのは、八千代からの着信という事。
出るべきか迷うが、出ないとずっと鳴りそうだもんな····。
「出、たほうが··いいと思うよ」
「んじゃ、結にぃ出てよ。俺が居るのは内緒ね」
真尋は、人差し指を唇に当てて言う。高校生になったばかりだというのに、無駄に色っぽいんだから。
けれど、今はそれどころではない。内緒だなんて、僕にできるわけがないじゃないか。
「なんで!?」
「話ややこしくなるでしょ」
「··んむぅぅ····。絶対動かないでよ」
僕は頬を膨らませ、指をスマホに向ける。
「かわいっ!! 頑張るね〜」
絶対に頑張らないでしょ。そう言いかけたが、面倒なので言葉を呑んだ。
僕は、意を決して電話に出る。
「も、もしもし····」
『ぁんで切ったんだよ』
「ご、ごめんね。操作間違えちゃって····」
『寝てた?』
「ううん、大丈夫だよ。八千代は、何してたの?」
怪しまれないよう、普段通りに会話をする。真尋は、まだ大人しくしているが、できるだけ早く切らないと不安だ。
『飯食ってた。大畠が試作だつって寄越してきた坦々麺。美味かったから、今度お前にも作るって』
「辛くないの?」
『お前のは辛くないように作んだと』
「んへへ。楽しみだなぁ」
僕が真尋を忘れ、へにゃっとした瞬間、真尋が小さくピストンした。本当にダメだって!
「ん、八千代····僕そろそろ寝る──」
『待て』
「んぇ?」
『お前、何シてんだ? ····1人か?』
「えっと····」
「はぁ······」
真尋が、溜め息を吐いて僕からスマホを奪い取った。
「俺だよ。今、結にぃに挿れてる」
なんって事を言っているんだ!
慌ててスマホを取り返そうと手を伸ばすが、奥の扉までズンッと捩じ込まれた。
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