蓮畑と君のこと

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蓮畑と君のこと

 九月下旬。通学路の畑ではレンコンの収穫が行われている。自転車で横切りながら、咲衣はふと思った。 (ああ、これってレンコン畑だったんだよね……。)  あんなに美しくみやびな花を咲かせていても、レンコンはレンコンだ。穴の開いた、シャキシャキねっとりのアイツだと思うと、ちょっと興ざめするのであった。 (彼の名前の由来はなんだろう——。) 『彼』とは、となりの席の小田野(おだの)(れん)である。  黒髪で前髪が目にかかっている。無造作にハネて流れているヘアスタイルは、ミステリアスな雰囲気をかもしだしているが、おそらく自然なくせ毛。  咲衣が思うに、蓮は鏡の前で必死に自分のヘアスタイルを気にかけているタイプではない。あれがネグセのたぐいだなんて奇跡でしょ、とヘアメイクになかば命をかけている咲衣はうらやんでしまう。    身長は185センチくらい。八頭身で手が大きい。縦長に大きなからだを見ると、すくすく育ったのだろうと思いたくなるが、幼いころは背も小さく持病をかかえていたらしい。  本人いわく、治ったら一気に背が伸びたのだとか。過去の入院のせいで進学が遅れ、年齢もまわりよりひとつ上だ。年の差を気にしているのか、背の高さにみがまえてしまうのかわからないが、同級生たちは小田野蓮と距離を取っている。  クラスメートの女子たちがうわさするところによると、無愛想で常にひとりでいるのだとか。  そんな事情もつゆ知らず、咲衣は蓮のとなりの席に座ることになった。もっとも、複雑な事情を知ったところで全く気にしない。  避けるどころか『君と友達になる』とまで宣言したのだった。
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