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「ごきげんよう。こんなところでどうしたのかな?」
この高峰という男。見た目は三十代で背は蓮と同じくらい。物腰が柔らかで、そこはかとなく色気がある。美術の授業に女子の比率が多いのは高峰目当ての生徒が少なくないからである。
「高峰先生、こんにちは」
「君は、一年生の天宮さんだったね」
はい、と咲衣は答える。蓮は「じゃあ、俺はこれで」と高峰に軽く頭を下げて行こうとした。
「あれえ、小田野くん。きょうは来ないの?」
その一言で、蓮はオブジェのように固まってしまった。
咲衣の視線は蓮と高峰を行ったり来たりしている。
気まずい雰囲気がただよう中、高峰は軽い口調で「あれ、なんかマズイこと言っちゃった?」と微笑んだ。
「……う、裏切り者」
蓮の表情には不満がにじみ出ている。
「まあ立ち話もなんだから。入りなさい」と、高峰は美術準備室のドアを開けた。
「……なにたくらんでるんですか」
ボヤきつつも、なんだかんだで蓮は素直に部屋へ入ってゆく。ええっ入るの!? と咲衣は肩透かしされた。
「大丈夫ですよ。天宮さんも」
高峰は声をかけた。指を曲げながら「おいで」と手招いた。
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