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美術準備室の秘密
美術室のとなりにある準備室は教室とドアでつながっている。教室の四分の一くらいの広さだ。教員専用のデスクと椅子が置かれ、高峰の持ち場になっている。職員室にも机と席はあるので両方を往来している。
ほかにも準備室には180センチ幅くらいの大きな作業テーブルがひとつと、それを囲んで椅子が四つあった。
「昼休みに準備室を解放してるんだよ。小田野くんに『ここに居ていいよ』って、わたしが許可したんだ」
なるほど謎がひとつ解けました、と咲衣はうなずいた。
蓮はいつのまに椅子に座っている。テーブルにひじをついたまま、ふんと鼻を鳴らして会話しようとしない。
咲衣は彼をじっと見つめて、自分から話してくれることを待ったが、場はしらけたままだった。見かねた高峰が話を切り出した。
「小田野くんのあとを尾行するなんて、天宮さんってなかなか大胆なんだね」
「尾行は語弊がありますっ。私は心配して気にかけてたんです」
そういって、咲衣は蓮の向かい側に座った。
「心配される覚えはない。もう俺にかまうなって。教室に帰れよ。本当にあんたも周りから浮くぞ」
「えっ、私もうすでに十分浮いてるけど?」
咲衣があっけらかんとして言い返す。蓮は顔を曇らせた。
「どういう意味だ?」
「まじ? 君、気づいてなかったの?」
黙りこむ蓮の目は、もっとわかるように説明しろといいたげだった。
「君の目にどう見えてるのかわからないけど、私は明らかにまわりになじんでない。クラスの子たちは優しいし、休み時間や昼休みに仲間に入れてくれるけど、誰もクラスメートの一線を越えてこない。私にはわかるの」
咲衣の声色は明るさがなくなった。ため込み続けていたフラストレーションが出てしまう。
「転校生って、はじめのうちは注目されて興味を持たれるけど、裏を返せば警戒されてるの。クラスの女子はすでに各々でグループを作ってる。ほんとの気持ちは、私に和を乱されたくないって思ってるんだよ。目で合図送りあってるし」
「……へえ、存外あんたって卑屈なんだな」
「事実をいってるの。ていうか、君も私のこと避けてるよね。あれから川で会うことも一度もないし」と、咲衣はわざとらしくうつむいて「ショック」とつぶやいた。
「え、川ってなに?」と黙っていた高峰は興味ありげに目を光らせる。
なんでもないです、と蓮ははぐらかした。「稽古が始まったから、暇を持てあましてる時間はもうない」と頬づえをついている。
「稽古ってなんの?」
「合気道」
ポカンとした顔で咲衣は首をかしげた。
「合気道ってなんだっけ?」
「あんたケンカ売ってんのか」
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