雪餅vs餃子隕石

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始まりは少年の願いだった。 ある宗教団体本部にて。 「準備はできたか?」 大きな杖をついき、黒いローブを纏った老人がしわがれ声で訊いた。 「はい、大司教。聖遺物17点に生け贄の心臓23個。生き血と聖灰を使っての魔方陣。すべて鏡の間に揃えてあります」 老人に付きそう若い男が扉を開けるとそこは真っ暗な部屋。所々に点々とキャンドルが付いているのみの暗闇が支配する部屋だ。 中央だけ少し明るい。 半径5mはあろうかという大きな円形の鏡が湖のように地面に埋め込んであり、そこだけが光を反射してぼんやりと怪しい光を発している。 「遂に来た……、我々の宿願を叶えるときが」 「はい、大司教。あと数分で始められます。大司教は呪いの準備をお願いします」 「うむ、人類のためと思い布教活動をしてきたがもはや仕方ない。愚かな民衆を目覚めさせるため多少の犠牲はやむを得ないのだ」 老人は悲しそうに呟き、部屋へ入る。その後ろを信者がゾロゾロと付いていく。その中に少年が一人。 「こら、ゆうたは外で待ってなさい」 「でもお母さん、僕お腹空いちゃったよ」 少年は小学生くらいの年齢だろうか。母親に付いてきたものの鏡の間に小学生は入れない。 「そうね、もうすぐ断食も終わる。終わったらゆうたの好きな物たくさん上げるから、食べたいもの考えておいてね」 途端少年の目が輝き出した。 「ほんと! わかった!!」 母親が少年の頭を撫でると少年は機嫌良く部屋に戻っていった。 ************* 「今、開かれた 来たれ地獄の使者よ、我らが生け贄を欲する悪魔よ 汝 世界を討ち滅ぼす力を持つ者にして天に仇成す者よ その罪と罰から己を解放し、その真の姿を顕現させよ 捧げたるは 血 灰 骨 盃 我らの救世主、そしてこの世に恐怖の与える悪魔 開かれた門にて我との契約を元に現世へその姿を示したまえ」 1時間に及ぶ儀式は今終わりを告げようとしていた。 大司教が最後の真言を言い終わったとき鏡が輝いた。 《我を起こす者よ、我の力を欲する者よ、願いを聞こう》 鏡の底から聞こえるその声は一音一音が空気を凍らせるほどに凍えて、心までもを震わせる。本能的に分かる地獄の声。 悪魔である。 大司教は悪魔の召喚に成功したのだ。 「おぉ悪魔よ、我の願いは「餃子が欲しい!!」」 突然、鏡の間の扉から光が差し、少年が乱入した。 「お母さん、僕餃子が食べたいよ!!」 「ゆうた!! 来ちゃいけません!!」 母親が慌てて少年を抱えて出て行き、再び鏡の間は暗闇に包まれる。 《その願い、しかと聞き入れ「ちょちょちょっとまってくださいませ、違います、それは私の願いではありません」》 大司教が悪魔の言葉を遮るがそれが良くなかったらしい。鏡から溢れ出る冷気が一気に増し殺意へと昇華する 《お前、五月蠅いな》 その一言で老人からは肉が剥がれ落ち、さっきまで「人間だった」骨格だけが残る。遅れて崩れる骨の音が響いた。 大司教の死亡に信者達は混乱し、たちまちパニックになって人々は鏡の間から散り散りに逃げ出す。誰もいなくなった鏡に映る蝋燭の炎が地獄の悪魔の笑みを照らしていた。
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