聞き込みは行き先を決める為に必要です

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聞き込みは行き先を決める為に必要です

「さて、そろそろ聞き込みを始めようか」  謁見後の休憩を済ませ、勇者のコミュニケーション力で聞き込みを開始した。勇者が質問をすれば直ぐに話してくれる人も居れば、遠回しに対価を要求してくる人も居た。しかし、勇者には遠回しの要求は通じない。良くも悪くも、勇者は真っ直ぐである。  聞き込みを続けている内に空は暗くなった。勇者の知りたい情報は手に入らなかったのだが、街道を歩く人も減ったので聞き込みを止めて夕食を摂ることにした。そうして、安価な店で夕食を終えて安宿に向かおうとした時だった。安宿に向かう道は暗く細い。つまり、魔法で明かりを灯している王都のメインロードに比べ、その道の治安は悪かった。 「おう、兄ちゃん。可愛い子連れて何処行くんだ?」  ガタイの良い集団が勇者の行く手を阻んだ。そして、背後からは飲み屋から出て来た集団が退路を阻む。 「それ、他人に教える必要があるのかな?」  勇者は、良い意味で空気を読まない。いや、そもそもこの世界観で空気を読む必要があるのかすら謎なのだが。一方、行く手を阻んだ男は、わざとらしい溜め息を吐いてみせた。 「まあ、良い。お前の行き先は墓場だ!」  多分、何かしらの決め台詞が有ったのだろうが、それを勇者に潰されたのだろう。何にせよ、正当防衛が適用される案件だろう。この世界観で正当防衛が通用するかは不明だが。 「コンヒュズ!」  しこたまレベル上げをしておいた、敵を昏倒させる魔法を発動させる。これで、魔法耐性の無い相手であれば、半日は意識を失ったままだ。実際に、勇者の行く手を阻んでいた集団は倒れた。背後で倒れる音がした辺り、退路を塞いでいた奴等にも魔法は効いたのだろう。後は、王都の治安を守る兵士を呼べば……そう考えた時だった。  背中に走る痛み、そして何か悪い物がそこから入ってくる感覚。瞬時に防御魔法を発動させ、背中を見る。すると、そこには深く刺さった矢が有った。その矢は、致命傷になる箇所には刺さってはいない。何より、この症状は「毒状態」だろう。それも、毒耐性のある人間にまで効果のある毒が、矢尻に仕込まれていたようだ。  これ以上の毒を取り込まぬよう、矢を力任せに抜く。幸い、矢尻が体内に残ることは無かった。それに、用心をして防具を装備したままなのが幸いした。出血はあるものの派手では無い。動脈は無事だ。息を吸えているから、肺も無事だろう。 「何で、矢を抜いたの? 血が」 「うるせえ! 毒を排出するには、血を流す方が早いんだよ!」  自分は、思った以上に余裕が無いらしい。心配して話し掛けてきた勇者に怒鳴ってしまった。話を遮られた勇者は、青ざめた顔で唇を噛んでいる。 「あ、悪い。だが、防御魔法を発動させた。これ以上の攻撃は来ない」  実際に、防御魔法を発動させてから何本かの矢がそれに弾かれた。それらの矢は、乾いた音を立てて地面に落ちたので、魔法で狙いを定める様なこともされていないのだろう。
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