聞き込みは行き先を決める為に必要です

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 幸いと言うか何と言うか、勇者が発動した派手な術で、王都を守る兵士が集まってきた。そうだよね、昼間ならとにかく、夜間にあれだけ盛大に光らせれば何か起きたと思うよね。因みに、昏倒させた奴等は元から意識が無かったのだが、勇者がトドメを刺したことにした。その方が、色々と説明も省けるし勇者の手柄になる。  近くで倒れている暴漢は、集まってきた兵士が手分けして拘束した。兵士が言うには、この中の何人かはお尋ね者であり、他の奴等も調べていく内に何かしらの罪状が出るだろうとのこと。また、弓で攻撃をしてきた者は、勇者が大体の方角を兵士に伝えた。弓で攻撃しやすい位置に関しては、王都で働く兵士の方が詳しいので、犯人確保だけでなく捜索まで任せることにした。  それから暫くして、一度に罪人を運ぶ為の馬車が到着した頃、幾らか緊張が緩んだ。王都を守る兵士が居て、襲撃者達は意識を失ったままではあるが、それでも油断は出来なかった。今のところ、弓で攻撃をしてきた相手の確保は、報告されていないからだ。 「御協力ありがとう御座います。この後、もし予定が無ければ兵舎でお話しを」  少なくとも、誰かと会う様な予定は無い。だが、私達は何に対して協力をしてしまったのか、何を話すことになるのか、話の長さは……それらが不明な状態で、直ぐに返答出来る様なものでもない。 「この後とは、具体的に何時から何時までですか? もし、貴方の目が正常なら、僕の仲間が負傷したこと位、直ぐにお分かり頂けると思いますが?」  勇者は笑顔を作りながら言葉を紡いだ。だが、その笑顔とは裏腹に、声はどこか冷たく落ち着いている。 「怪我でしたら、こちらで治療を」 「あ、負傷したとは言いましたが、僕の仲間は優秀ですから。肉体的な傷はもう塞がっています」  傷が塞がったこと、勇者は何時の間に確認したのだろうか? 負傷した場面は分かり易かっただろうが、私は一言もそれが回復したことについては伝えていない。 「貴方は、自らの仕事の為なら、傷付いた人の心のことなど軽視するのですか?」  この様な勇者は、初めて見た。何時もポジティブで、辛い時でも弱音は吐かない。頼りにされなくても、軽く見られても怒らない勇者から怒りの感情が滲んでいる。 「僕達は、この道の先にある宿に宿泊しています。もし、話を聞きたいのなら貴方が僕達と来て下さい。僕の説明出来る内容であれば、宿泊している部屋でお話しします」  ここまで話したところで、勇者の感情は凪いだ。そして、作り笑顔は消えた。
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