AIプロデュース

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 社長はこれまで人員不足の事務所内で采配を振ってきた切れ者である。彼の決断力があったからこそP.Sエージェンシーが存続しているとまで言われている。社長が必要と判断すれば社員も納得するだろう。 「業務の一部をまかせるって、どんな仕事をさせるつもりですか?」 「スケジュール管理だ。最初は所属タレントの三分の一のスケジュールをまかせてみる」  社長が言ったそばから、その場にいたマネージャーたち数人のスマホから着信音が鳴った。AIに振り分けられた該当タレントのマネージャーたちだ。彼らはスケジュール調整の作業が免除されるという。 「スケジュールは毎週末、各マネージャーのスマホやパソコンに送信される。試用期間中は確認を怠らないように」  社長の説明に社員たちは、スマホを手に複雑な表情を浮かべている。これまで煩雑な業務振りまわされてきたので、突然それらに関与しなくていいと言われても信じられないのだ。 「慣れるまで時間がかかるだろうが、よろしく頼む」  しかし、マネージャーたちの心配は杞憂(きゆう)でしかなかった。AIが調整したタレントたちのスケジュールは完璧だった。過去の業務内容とスケジュールの記録から学習し、移動や営業先への挨拶まで組み込んだ綿密な予定を立ててきた。トラブル発生した場合にも即座に代わりの予定表を作り上げ、問題の悪化を回避した。 「こんなに楽になるとは思わなかった」。疲弊していた社員たちは気持ちの余裕を取り戻し、事務所内のギスギスした空気がなくなった。
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