AIプロデュース

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『私はエイミー。P.Sエージェンシーの業務に携わっているAIです。あなたを含め、わが社に所属するタレントのカウンセリングはすべて記録させていただきます』  エイミーと名乗った女性は優しい声音で(もちろん人工音声だ)説明する。いや――実際は女性ではなかった。名前といい、映像といい、女性を装っているに過ぎない。必要がない限りAIに性別は設定されていない。人間に柔和な印象を与えるため、相手から情報を引き出すために「女性」の印象を植え付けているのだ。男性だと相手に警戒心や対抗心を持たせてしまう。話し相手が美しく、穏やかな物腰で近づいて来たら口も軽くなるというものだ。 『芸能活動のクオリティーを高めるために、茜さんのご要望をお聞きしたいのです』  同席した村越マネージャーを窺うと、苦笑しながら肩をすくめている。何に対する苦笑いなのか茜にはわからなかった。AIがマネージャーとタレントのコミュニケーションに割って入ることがナンセンスなのか、カウンセリングそのものが大袈裟だと言いたいのか。 『茜さん、あなたは今後どのような飛躍を遂げたいと思いますか?』  飛躍――大手の事務所に所属していると言っても、茜は会社の看板を背負うほどの売れっ子ではなかった。一般的に言えば美人の部類に入るが、過去に主演級の華がないと言われて落ち込んだこともある。よくてドラマの準主役止まり。そんな自分はこの先何ができるのか。茜は真剣に考えた。
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