AIプロデュース

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 エイミーの提案に反対する気はなかったが、茜も村越マネージャーも半信半疑で計画表のメニューを実行した。  ところが、一週間後に体重が2kg減ると茜は俄然やる気が出てきた。3kgの壁をもう少しで越えられる。自分で考えなくても必要なエクササイズはわかっている。摂るべき食事も。それに他人の指示どおりの動くのは思っていたよりも楽だった。  芝居の勉強は、体重を絞るよりも厳しかった。あらゆる演技メソッドを頭にたたきこみ、他所の事務所や劇団のワークショップにも参加させられた。端役が多くても地道にキャリアを積み重ねていた茜でも素人扱いだ。P.Sエージェンシーでも芝居のレッスンを行っているというのに。 「あの子、テレビで見たことあるよね」 「どうしてこんなワークショップに出ているの?」  ひそひそと自分を噂する声に居心地の悪かった。途中で帰りたくなったが、自分から音を上げたと思われるのが嫌で思い止まった。  エイミーの二度目のカウンセリングは食事生活の管理がすばらしいというお褒めの言葉からはじまった。 『新しいトレーニングを取り入れれば、ボディラインの黄金比に近づくでしょう。お芝居の仕事は結果がまだ出ていませんが、先月の活動を継続してください』  茜は不本意だった。また素人に毛が生えた新人に混ざって演技指導を受けなければないのだ。 「本当に効果が出るのかしら?」 『もちろんです』  いとも簡単に請け負うエイミーの答えが(しゃく)に障った。もし結果が出なければ翌月以降のカウンセリングで間違いを正してやろうと考え直した。「AIでも間違いはあるのね」と嫌味を言ってやりたくなる。 「わかった。もう少し我慢して続けてみるわ」  やるだけやって目標を達成できなかった場合は、エイミーの見とおしが甘かっただけ、と責任転嫁もできる。 『茜さん、ぜひ頑張ってください。それでは次回のカウンセリングでお会いしましょう』  すると、エイミーが映し出されていたパソコンの画面が暗転した。
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