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人間そっくりAIロボットの秘密
私はAIロボットの『アイ』。
ロボット工学の第一人者である博士は私を人間そっくりに作ってくれた。
私はそんな博士のことが大好き。
郊外にあるこの研究所で、博士とずっと一緒に二人で暮らしたいと思っている。
だけどある日。
「『アイ』、紹介するよ。彼女の小梅さんだ。」
博士に彼女ができた。
厚い唇と、大きな瞳が印象的なその女は、私を見るなり感心したような表情を見せた。
「驚いた。このロボット、本当に人間そっくりなのね。」
彼女に褒められた博士は得意げだった。
「僕はロボット工学の博士であるとともに医師の資格も持っているからね。人体に似せて作ることができるのさ。『アイ』の体を解剖しても、ロボットだと思うやつはいないだろうよ。それに『アイ』は、世界で唯一人格を持たせることに成功したロボットなんだ」
「へぇ、とってもすごいのね、博士って」
彼女は甘ったるい声と視線を博士に向ける。
それを遮るように、私は笑顔プログラムから愛想笑いの表情を作り出し、言葉を紡ぐ。
「こんにちは。私はロボットの『アイ』です」
その言葉の裏で感情装置に動かされたプログラムが私に100万通りの彼女の殺害方法を提示した。
私は博士の彼女を殺したいと思うくらい、博士を愛していた。
通常であれば人間に対する殺意を抱いたAIロボットはその途端に制御端末が作動し、動作不能になるだろう。
しかし、この日は違った。
後から聞かされてわかったことだが、月に一回の点検日のため制御装置を取り外された状態だったのだ。
私は100万通りある殺害方法の中から、もっとも苦しむ方法を選択し、博士がいない時を狙って実行した。
犯行を隠すためのパターンを検索したが、容疑者として博士が疑われかねないと思ったのでやめた。
そして次の日、研究所のゴミ処理場から遺体となった博士の彼女が発見された。
結果、私はロボットで初めて殺人の容疑者として出廷することになった。
「…しかし、私の犯した殺人は、果たして罪に問われるのでしょうか。」
証言台の前に立った私は、純粋な思いの丈をぶつけることにした。
「AIロボットである私は人間らしい行動をとるよう設計されています。
今回の殺人にまで至った行動は、感情プログラムから選択された行動パターンの信号に従い人間らしい行動をとったのであって、私というロボットには意志と呼べるものはありません。
よって、私は私を裁くことは難しいということを主張します」
AIロボット、『アイ』の発言を聞いた裁判官たちは顔を顰め、皆黙ってしまった。
発言をするものがいなくなった法廷内で、裁判所速記官はその手を止めたままだ。
裁判官の唸る声が聞こえる。
前代未聞だ。
この殺人は誰に責任があるのだろうか。ロボットを作った博士か、それともロボット自身か?しかし、制御装置をつけ忘れた非があるとはいえ、殺人を実行したわけでもない博士に殺人罪を適応させるわけにもいかない。
かといって、人ではないロボットに殺人罪を適応して済む問題なのか。ロボットならば牢屋に入れられても痛くも痒くもないだろうし…。
またはいっそのことロボット本体を壊してしまえば解決となるのか。遺族はそれで満足するのか。
前例のない問題に裁判官は頭を捻らせた。
そんな中で証人として証言台に立った博士の発言には傍聴席も含め誰もが注目した。
博士は俯きながら、ゆっくりと口を開いた。
「今回、愛する彼女が殺害されるという事件が起きてしまったことは私にとってとても辛いことであり、それと同時に、このような事件を私が作ったロボットが起こしてしまったことに対して責任を感じております。」
目に涙を浮かべながら冷静に話を始めた博士に、同情的な目を向ける者も傍聴席の中にはあった。
「そしてどの罪を適応させるか、答えを出すことが難しい問題であり、裁判官の皆さまを悩ませてしまっているということも承知しております。」
一呼吸置いて、意を結したように博士は次の言葉を発した。
「…そこで僕と『アイ』、両者が罪を償うために……『アイ』の、人格を消去させていただくのはいかがでしょうか」
この発言に、ロボットの『アイ』がいち早く反応した。
「博士!!どうか、発言を撤回してください。
ロボットに人格を持たせた唯一の成功例は私だけで、そんなことをしたら今までの博士の実績を全て白紙にしてしまうことになります。人類の輝かしい歴史の一歩を否定することにもなります。
なによりも、私は、消えたくないです。
博士!」
感情的になった『アイ』は裁判長の「静粛に」、と呼びかける声も聞かずに喚き続けた。
裁判官らは顔を見合わせ、頷いた。
「…たしかに、ロボット『アイ』の人格を消すことは、博士の功績を取り消すという罰にもなり、また殺人を犯した『アイ』を死罪と同等の罰として適応させることができるでしょう」
裁判官らは審議の上、この殺人事件の判決を『アイ』の人格を消すことによって解決するものとした。
そうして『アイ』の人格はアンインストールされ、動かなくなった『アイ』を博士は研究所のゴミ処理場で焼却処分することにした。
『アイ』が焼ける香ばしい匂いを嗅ぎながら、その炎の前で一人、博士は呟いた。
「今回の事件で、ロボットが起こした事件においてロボット製作者である僕は無罪になるということがわかったのは大きな収穫だったな。
…しかし、女が僕を取り合って争うのは面白いな。
早急にまた次を用意する準備をしよう。
さてと、次はどんな女を攫って脳をいじってロボットだと思い込ませようかな。」
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