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蓮子が休憩に入ったのは午後の五時。夕方の買い物をする主婦達が、ある程度過ぎ去った頃合いである。この店に来てから、夕食時に昼食をとるのは珍しくなくなった。
蓮子は、誰もいない休憩室に入った。菓子パンを机に置く。そして、いの一番にスマートフォンを確認する。
(拓さんからの連絡はなし、か)
蓮子は肩を落とした。小池拓は、蓮子の初めての交際相手である。拓は蓮子の勤める店の常連客だった。仕事中に声をかけられ、連絡先を渡されたことから関係が始まった。
拓との交際が順調に進めば、自分はゴールできる。しかし、できなかった時に待ち受けるのは、買い手のつかなかった女という称号である。価値観の多様性が謳われているものの、やはり未婚の女性はまだまだ少ない。親の世代からは、腫れ物扱いされることも多い。パートのおばさん達のように。
(拓さんと幸せにならなくちゃ)
菓子パンを片手に、スマートフォンでネットサーフィンをする。「三十路女達の酒場」というタイトルの掲示板に入り、上からコメントを読み漁る。ところどころに入っている広告が鬱陶しい。
スマートフォンが振動した。同時に、画面の上に表示が出る。誰かからメールやメッセージが来ると表示されるものだ。
まずは差出人が目に入る。差出人は太字で表示されるのだ。
「拓さん」
蓮子の声が弾む。続いて本文だ。
「話がしたいんだ。この日なら蓮子さんは仕事だよ」
蓮子の頭が打たれた。急いでメッセージをタッチし、メッセージアプリに移動する。
《このメッセージは送信者が削除しました》
拓とのメッセージ画面には、そう表示されていた。
(私がいない日を見計らって、話がしたいって……私ではない誰かに送ろうとしたのよね?)
蓮子の中に、最悪の未来が描かれる。女の役割を果たさぬまま、醜く老いていき、孤独に死ぬ。
(聞きたい……けど、拓さんに、面倒な女って思われたら……)
拓の足にしがみつく自分が見える。
「気持ち悪いんだよ、ブス」
脳内の拓が、蔑みの目を向けてきた。ゴミを払うかのように、蓮子の顔面を蹴り上げる。
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