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「これって、変身のクスリ」
真っ白な箱である。開封すると、カプセル状の薬が入っていた。
付属の説明書には、豆粒のように細かい字が、びっしりと敷き詰められている。とりあえず、飲み方を確認するべく、用法の項目を探す。
「一日一回でいいのね」
用法を確認した蓮子は、早速一錠を口にする。
特に何の変化も感じなかった。テーブルの上の鏡を見ても、変わらない。そばかす、シミ、シワ……形の悪い顔が映っている。
(飲んですぐには変わらないわよね……そもそも、効果があるのかも半信半疑だけど)
溜息をついた蓮子は、いつもの朝仕度に戻った。
――いつものように客の無茶に応え、いつものように重い荷台を運び、いつものように飲料や酒を補充する。
みすぼらしい日常が非日常になったのは、手洗い場で鏡を見た時だった。
「えっ……?」
蓮子は思わず目をこすった。もう一度、じっくり鏡を確認する。
「消えてる……!」
忌々しいそばかすが消えていた。幼少期からのコンプレックスが。内向的な性格になった元凶が。
「これって、変身のクスリの効果なの……?」
薬を飲んだだけで、しかも、こんなに早く消えるとは思えなかった。しかし、それ以外に特別な何かはしていない。となると、やはり薬のおかげということになる。
「すごい……!」
蓮子の瞳が輝いた。
(これなら、拓さんの気持ちを引き留めておける……!)
蓮子の拓に対する不安は、いつの間にか確信へと変わっていた。そして、その確信を砕く希望を、たった今手に入れた。
――気が付くと、自室のベッドに横になっていた。窓の外は、控えめな冬の太陽が照らしている。
(帰ってすぐに寝ちゃったのかしら……)
クリスマスや年末年始を控えたスーパーマーケットは、特に忙しいのだ。いつもより念入りな計画が必要であるからだ。
「ぼうっとしてられない!」
今日は拓との逢瀬の日である。蓮子はテレビをつけて、仕度に取り掛かる。
シャワーから戻ると、朝のニュース番組が流れていた。
蓮子は化粧ポーチを開ける。今日以上に、化粧を楽しみに思ったことはない。
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