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――それから、蓮子は欠かさず薬を飲んだ。顔だけでなく、スタイルもよくなっていく。
スーパーマーケットで声をかけてくる客の態度も、明らかに変わった。以前なら、店員が客のカートに商品を載せて然るべきという態度であった。
「いいよいいよ、お姉さんに重たいものを持たせられないから」
それが、客自らがカートに載せるようになった。
(やっぱり、人生って見た目で決まるのね)
蓮子は腹の中で笑った。
変身のクスリがある限り、自分の人生は勝利が確約されている。……
――気が付いたらアパートに居た。最近、気が付くとどこかにいることが増えた。
(スーパーなんて薄利激務、まして、年末前だもの。疲れてるんだわ)
お歳暮用のギフトや、正月飾りの進捗管理をしつつ、飛ぶように売れる商品の補充をせねばいけないのだ。頭がぼうっとするのも無理はない。他の部門のチーフだって、疲れ切っているのは同じなのだ。「気が付いたら寝ていた」なんていうのは日常会話だ。
「今日は午後から半休ね」
蓮子は高揚していた。夕方から、拓との逢瀬があるのだ。
「あれから十日。薬のおかげで、ますます綺麗になった」
洗面台の鏡の前に立つ。以前は、この場所が大嫌いだった。しかし今は、積極的に鏡を見るようになっている。
仕事に行く前に、忘れ物が無いかを確認する。
「あれ?」
蓮子は首をかしげた。鞄の中にカッターが入っていたのだ。
「いつもはロッカーに置いておくのに」
商品の入ったダンボールを開ける時に、使っているカッターだった。職場でしか使わないので、普段はロッカーにしまっておくのだが。
「何かの拍子に、鞄の中に入っちゃったのね」
そうこうしているうちに、出発の時間を迎えた。
蓮子は変身のクスリを飲んだ。そして、軽い足取りで扉を開けた。
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