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(拓さん、やっぱり他の人と……?)
先ほどまでスマートフォンを操作していたのは、他の女とのやり取りだったのでは? 自分よりも、その女を優先したのでは?
「コート、見つかるといいですね。失礼します」
去りゆく拓の背中を見る蓮子の顔は、人魚と般若をぐちゃぐちゃに混ぜたものだった。
――公園に戻った蓮子は眉をひそめた。
(人だかり……それに、あれは、警察?)
神妙な顔つきの人々と、何やら公園を調べている様子の警察官が数人。
(コートを取りにいける雰囲気ではないわね……)
蓮子はその場を立ち去った。目的を果たせないのなら、寒空の下にいる意味はない。それに、何だか胸がざわざわしている。拓への不安からだろうか。
――蓮子は悶々とした一週間を過ごした。
拓に会いたい。本心を聞きたい。しかし、厄介な女だと思われたくない。
(見捨てられないために、もっともっと、綺麗にならなきゃ)
夕食を終えた蓮子は、変身のクスリを飲んだ。朝にももちろん服用している。
薬を飲むと、心が安心で満たされる。これで私は美しくなれる。拓の浮気相手より魅力的になれる。
そうしてぼうっとしているうちに、時間が過ぎているのである。
スマートフォンが鳴った。メッセージが来たことを知らせる音だ。
(誰……?)
意識をふわふわと飛ばしていた蓮子は、億劫そうに画面を確認する。
「……拓さん!」
一気に覚醒した。
『明日の夜、お会いできませんか。大事な話があります』
蓮子は即答した。
『もちろんです』
明日は運よく休みであった。いや、休みでなくとも、拓の胸に飛び込んだだろう。
(大事な話って……)
蓮子の世界で、鐘が鳴り、純白のヴェールがなびいた。
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